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風が吹くままのakrutmのレビュー・感想・評価

風が吹くまま(1999年製作の映画)
3.8
珍しい葬儀の風習を取材するためにイラン北部の山村を訪れたTVクルーが、亡くなりそうだった老婆の体調が持ち直したことで、その村で待ちぼうけになる様子を描いた映画。村の人々ののんびりとした日常と、電話での催促に見られるような都会の忙しい日常の間を、主人公のTVディレクターが行ったり来たりする様子が、携帯電話が着信するたびに電波の状態が良好な丘の上に車で行くというシーンで象徴的に描かれている。多くの登場人物が声だけで、姿を現さないという点も本作の特徴である。そうすることで、見る者が主人公の一挙一動に注目せざるを得なくしている。

丘の上から見渡せる風景や、車やバイクで村を移動するときの風景の美しさは本当に素晴らしくてため息が出る。これらの映像を見るだけでも、本映画を見る価値があるかもしれない。このような美しい世界が見れなくなるので、死は最も残酷であるという医師の言葉が、本映画の美しい映像とテーマである「死」を結びつけている。また、我々が他人の死というものをどう捉えるかが、老衰で死にそうな老婆と生き埋めになった男性で対比的に描かれているのも面白い。ストーリー的に退屈といえば退屈なのであるが、じっくりと味わうように鑑賞すれば、きっとお気に入りのシーンが見つけられるであろう。
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