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アレクサンドリアのmaverickのレビュー・感想・評価

アレクサンドリア(2009年製作の映画)
4.2
2009年のスペイン映画。西暦4世紀のアレクサンドリアを舞台に、女性天文学者ヒュパティアを主人公とした物語。主演はレイチェル・ワイズ。


丁寧に作られているのを感じる歴史大作。当時の人々の生活をそのまま覗き見ているかのようなリアルな質感に驚く。レイチェル・ワイズとオスカー・アイザックの熱演も見事だが、他の出演者の成り切り様も凄い。その他大勢の群衆のひとりひとりにいたるまで、そこで生活している人だと感じさせる。オープンセットや衣服などの美術も実に細やかである。没入感は半端ない。

ヒュパティアが実在した人物で、何をした人かすら知らなかった。単純にレイチェル・ワイズとオスカー・アイザック目当てで観たのだが、様々なことを知る興味深い作品であった。キリスト教が勢いを増し、その他の異教徒を飲み込んだ時代でもある。自分が知っているキリスト教のイメージとは全く異なるもので衝撃的だった。信仰心が引き起こす狂気が恐ろしい。

本作で描かれている事柄に興味を抱き、鑑賞後に史実を調べてみた。大図書館の存在や、聡明な学者らによる哲学の確立など、こんな遥か昔に高い文明が成り立っていたことに驚く。その一方で、暴力に支配された原始的な面も。論理的に考えられるのに結局は暴力に走る。それが何とも愚か。ショッキングな描写が劇中に溢れているが、実際にはもっと野蛮な行いが繰り広げられている。教徒がヒュパティアに行った残酷な仕打ちは酷すぎて吐き気がする。映画の描写は全体的にだいぶオブラートに包んであるのだなと思った。

レイチェル・ワイズが演じたヒュパティアは気高く聡明な女性。ちょっと強気すぎるのが気に障るが、自分の生き様を全うした信念の持ち主で尊敬できる。主演が彼女なのは素晴らしい配役であった。美しさにおいても文句なしで、作品性に見事に合致している。ヒロインとして映えるのはもちろん、その美しさが彼女のはかない人生をより悲劇的に感じさせる。レイチェル・ワイズの堅実な演技は実に見事だった。


胸糞悪い話でもあるが、歴史を知ることでいろいろと学びがある。強く印象に残る良質な作品であった。
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