Kumonohate

アレクサンドリアのKumonohateのレビュー・感想・評価

アレクサンドリア(2009年製作の映画)
4.1
キリスト教徒による異教徒(古代神信仰やユダヤ教など)迫害が起きていた5世紀前後のアレクサンドリアを舞台に、女性哲学者・数学者・天文学者ヒュパティアの後半生を描く。こんな人が実際にいたとは知らなかったので、もうそれだけで興味津々。しかも、自分好みのテーマなので速攻没入。

古代ギリシャローマの知的財産が集結した図書館を有する知の都に、キリスト教による神秘主義・排他主義・女性蔑視の嵐が吹き荒れる。周囲がやむなくキリスト教に改宗する中、「信仰は強制されるべきでは無い」とそれを拒み、あくまでも合理的・科学的なスタンスを貫いた美しい女性科学者。だが、それゆえに悲劇的な最期を遂げ、その死によって古代ギリシャから続いてきた学問の連鎖に終止符が打たれる。テーマはまるごと現代に当てはまる。争いやデマや悪政や決めつけや平準化や偏狭や差別によって、どれほどの才能や知識が葬られ、どれほど科学が逆戻りしてしまったことか。

同時に、象牙の塔(アレクサンドリア図書館には研究教育機関としての機能もある)で育まれる純粋な探究心・学問の前の平等・理想主義がかけがえの無いものであること、にもかかわらずそれらは往々にして侵害されるものであることも痛感する。そしてこのテーマもまた、今に当てはまる。現在の最高学府においても、それらが失われていないことを望む。

一方で、古代知の水準は奴隷制度を前提に保たれており、その恩恵に与っていたのはごく一部の人間であったという不平等も描かれる。これもまた普遍的なテーマである。

みたいに考えさせられるテーマ満載な本作だが、これらのテーマを体現するヒュパティアを演じるレイチェル・ワイズが最高。教え子に惚れられるも学問愛を貫き、凛としてときにチャーミングな知的美人、という役柄にピッタリである。本作のテーマを現代に引き寄せて考えられるのも、彼女の演技のリアリティのおかげだと思う。

そして、そんな彼女がその真理の探究にいそしみ、いつも見上げていた空(宇宙)からの俯瞰カットが効果的。時に殺し合う群衆をアリンコのように見下ろす上空からのカット、時にジオラマのようなアレクサンドリア全域を見下ろすさらに上空からのカット、時に丸い地球を見下ろす成層圏外からのカット。人間の様々な営みを大きく俯瞰する真理の目線は、ヒュパティアとともに本作のテーマを具現化している。

てなわけで、たいへん面白かった。
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