Mikiyoshi1986

さらば、わが愛 覇王別姫のMikiyoshi1986のレビュー・感想・評価

さらば、わが愛 覇王別姫(1993年製作の映画)
4.6
京劇「覇王別姫」の義兄弟コンビを通して、中国激動の近代史50年を綴ったチェン・カイコー監督の最高傑作。

本作を観賞すると、高校の修学旅行時に北京で観た京劇が今でも鮮明に思い出され、映像と記憶とがオーバーラップする感覚に陥ります。
オペラと歌舞伎、そしてアクロバットな演出が融合したような歴史伝統ある京劇ですが、文化大革命を経てその神髄はまだ現代にも受け継がれているのでしょうか。

かつてイタリアと中国の近代史を綴った作品としてベルトルッチ「1900年」と「ラストエンペラー」がそれぞれありますが、
劇団を通してギリシャの近代史を描いた点ではアンゲロプロス「旅芸人の記録」とも趣向は類似しており、
その後クストリツァ「アンダーグラウンド」では楽劇団を通してユーゴスラビアの近代史を描き、本作の2年後には同じくパルムドールを獲得しています。
そしてこれらのどれもが名作に挙げられる超大作だから凄いよね。

本作では実に300年続いた清朝が滅亡し、中華民国が動乱の時代を駆け抜けてゆく様を情感たっぷりに描破します。

その中で繰り広げられる義兄の小楼a.k.a.石頭と、彼へ秘かな想いを募らす義弟の女形役者・蝶衣a.k.a.小豆。
彼らの絆を脅かし、人生すらも翻弄していく時代背景と共に、
小楼の妻で元娼婦の菊仙、そして弟子・小四との愛憎劇もドラマチックに展開。

そして本作の見所はなんといっても、「覇王別姫」の劇中で唯一小楼を愛することができる切なさと、その性別を越えた不毛の愛に苦悶するレスリー・チャン。
妖艶な身振り、表情で見事に女性的な心を持ち合わせた男性を演じています。
この説得力ある演技はやはり、レスリー・チャンが後にゲイであることをカミンガアウトしたことも起因するかと思いますが、
"男を愛する男"という新境地によって彼はカーウァイ「ブエノスアイレス」でもその本領を発揮することに。

そして明日8月12日はチェン・カイコー監督65歳のお誕生日。
香港返還以降はあまりパッとしない印象の香港映画ですが(日本映画こそ言えた分際じゃないけど)、彼の益々の活躍と再起を是非とも期待したいと思います。
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