垂直落下式サミング

座頭市千両首の垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

座頭市千両首(1964年製作の映画)
4.0
オープニング・クレジットが変わった趣向で、舞台演劇の設定の様な場所で座頭市の居合斬りデモンストレーションが行われる。香港映画によくある演舞のよう。『カンニングモンキー天中拳』のオープニングにて、ジャッキーが座頭市を演じているのは本作のパロディだと思われる。
本作では、百姓たちが代官へ献上するための上納金が浪人たちに盗まれ、市には濡れ衣がかけられてしまう。百姓たちはデカデカと「上納金」と書いてある大八車を運んでおり、盗んでくださいと言わんばかりの過失があるのは突っ込みポイントなのだが、百姓にとって年貢の未納は死に等しいものだ。
祭りを楽しむ村人に受け入れられていた市が疑いをかけられ、排斥される立場となってしまったときにみせる悲哀の表情は、初期座頭市に残る渡世の嫌われものとしての影が強調されていた。「このドメクラが!」と言われてプッツンしたのをぐっとこらえて腹に納め去っていくのがいい。
そして、映画の中盤の赤城山の名シーン。国定親分との絡みはまるでもうひとつの劇中劇を見るよう。他にも美的な映像には目を見張るものがあり、代官所から溢れだし闇を進む御用提灯の灯り、列をなして進む侠客たちの影、賭場で市と浪人が会合したときの二者の力関係を抽象化したかのようなシンメトリックな構図、霧がかった平野にて駕籠に入れられ斬首場に向かう庄屋様を事も無げに助け出すヒロイックな一筆書きのワンカットなど、どれも劇画的なタッチで撮られている。
ラストバトルは恰幅の良い若山富三郎の卑劣な不意打ちによって引き回され、馬上からは鞭の攻撃を浴びるなどして苦戦するが、そこは頑張りでなんとかなる。
ここで目を見張るのは、若山富三郎のフィジカルの強さだ。頭から落馬するのに、すぐさま立ち上がろうとするのをワンカットでみせる。ベビーフェイスでも悪役でも作品を輝かせる稀有な役者だ。
そして、座頭市は二度目の兄殺しを達成するのだ。弟は二度刺すのである。そう、血を分けた実の兄弟を忌み嫌う貴乃花親方と花田まさる氏のように…。