ベルサイユ製麺

元祖大四畳半大物語のベルサイユ製麺のレビュー・感想・評価

元祖大四畳半大物語(1980年製作の映画)
3.5
DIG &PADという、邦画の復刻とアングラ系の封切新作をリリースするレーベルのラインナップの内の一作です。以前レビューした『ゲンセンカン主人』もこのレーベルのリイシューでした。3〜40年前はこの手のカルトや超大物漫画家の自伝的作品が流行っていたのかな?(←調べない)
今作は『宇宙戦艦ヤマト』『キャプテン・ハーロック』『銀河鉄道999』やマッキーとの泥仕合、ドクロニットキャップなどでお馴染みの松本零士先生の自伝的性格の作品です。(自分の身の上に起こった出来事を、実在の人物・実際の場所をモデルにして描いた、という事みたい。)
…実は自分は999ならアニメも原作も好きなのですが、ヤマトに関しては、原作もアニメもリメイク版もキムタクも全然触れた事ありません(そもそも松本零士作品と言えるの?)。はたしてそんな程度の認識で観て分かるものなのだろうか?と若干不安だったのですが…。

物語は、主人公の足立 太(山口洋司)が上京し、四畳半のボロアパートに入居するところから始まります。何の目標も無く、予備校に通う為に金を貯めるなどと嘯いていますが、勉強するシーンは皆無。たまに働いたり、酔っ払って暴れたり、皮膚病でおマタをボリボリ掻いたり、お金が無さすぎて一人で不気味に笑ったりしている…だけ。
向かいの部屋にはヤクザもんのジュリー(前川清)とジュン子(篠ひろ子)が2人で同棲していて、ジュリーは所謂ヒモであります。ジュン子は気立ての良いベッピンさん。
基本、この3人が喧嘩したり・仲直りしたり・酔ってクダ巻いたり・ションボリしたり…が映画の中心で、後はたまーにアパートの住人(ラビット時代の関根さん!)や大家の老夫婦がちょこちょこ出てくる、だけ!…おい!マジでこんだけか⁉︎
そう。漫画描かない。志さない。読みもしない!最底辺の惨めで呑気な日常が在るだけ。この、完全にダメな若者が、後にフランスで文化勲章を頂戴するのである。勇気湧くね!
…かつてお金の無い若者が四畳半という檄狭の物件で生活する事を余儀なくされていた時代があって…などと嘯きたいところですが、実はわたくしも一人暮らしの最初の部屋はバンカラ気取って(?)四畳半でしたよ。その部屋にDJブース作ってレコード千枚とか収納していたのは我ながら気が狂ってましたね。就寝中に伸びをして壁に穴をあけたのを、自分でセメント塗って補修したり…。貧乏暮しの思い出は何故だか楽しい。(今も貧乏)
主演、(山口洋司)←とか書きましたが、これ以降映画に一本出たきりで、画像検索でも映画のワンシーンがギリ見つかる程度。とにかく四肢の長さを含めてルックスがマジでヤバいです!若くしてドニ・ラヴァン並みの危険な存在感を放っております。こんな人よく見つけなぁ…。ジュリー役の前川清、はなんか今と殆ど変わってない印象。あと関根さんも。それより若かりし頃の篠ひろ子さん、美しすぎる!この時代にしてこの美貌・プロポーション、まさにスター!
因みに今作、松本零士さん自身も共同監督という形で参加されているのですが、主役の足立氏が変にモテるんですよね…。うむむ、味わい深い。やっぱり九州男児として漢を磨いてきた自負が、内面からフェロモン的に漂っていたのでしょう。これは思うに、時間は夢を裏切らないし、夢も時間を裏切ってはいけない、とかそういう事だと思います。自分で考えた言葉ですよ!何か問題ありますか⁉︎
当時の猥雑でエネルギッシュな街の様子が良いです。清潔なだけの高層ビルとか全部ぶっ倒れちゃえば良いのに。渋谷の再開発もオリンピックも全てfuckです。“やい!コウボク”“スンズリ”“ハンチク”等のエッジの効いた言葉も素敵!格好良い時代だなぁ。

例えば、ジュリーと酒を酌み交わすながら「若いから、無限の可能性を秘めた青春と希望の塊なんだと思う時もある。…落伍者だと思うときも」なんてシンミリとさせる場面も有りますが、カストリ焼酎飲まされて椅子投げて暴れまわったりとか、ベランダで直射日光でおマタを消毒したりとか(サルマタケのシーンありましたよ!)、基本的に碌でも無い事しかしてません。この青年が後にダフトパンクのPVを手掛けるようになるのだから、希望しかありませんね!よっしゃ!!…生存者バイアス?それなんですか?焼酎の銘柄?

破天荒な漫画家の青春時代、例えばはるき悦巳先生とかで観てみたい!もう少し最近なら、桜玉吉先生とかも良さそうだけど、現実的にありそうなのは東×××子とか久○○○○ウとかなのかと勝手に思ってしまって、…やはり希望は過去にしか無いのか。