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ヒーロー・ネバー・ダイのnetfilmsのレビュー・感想・評価

ヒーロー・ネバー・ダイ(1998年製作の映画)
3.8
 ヤクザが短い景気を終え、シャバへ戻ると組の雰囲気も力関係も何もかもが昔と違っていたというのは、かつての日本のヤクザ映画が得意とした風景だったが、今作も皮肉な運命に導かれたかつての親友同士が出て来る。香港の裏社会の実権を握る2つの組織が、血みどろの抗争を繰り広げている。その敵対する2つの組織でトップを張るのは、ジャックとチャウというかつての親友同士であり、クールで凄腕の用心棒ジャック(レオン・ライ)は策略家のペイの配下、そして腕利きの殺し屋チャウ(ラウ・チンワン)は残虐なチョイの配下で、お互いに敵のボスの命を狙っていた。B級プログラムピクチュアの例に習い、なぜジャックとチャウが対抗する組織についたのかは明かされることはない。チョイの組の奇襲攻撃により、夜の湾岸道路における銃撃戦がいきなり幕を開けるが、チャウはジャックに対して光線銃を当てるも、最後まで彼の命を狙うことはない。殺し屋でありながら、2人ともかつての親友である互いを意識しあい、情けをかける間柄にある。赤い光線を当てられようが、涼しい顔でタバコに火をつけるジャックの姿からは、ジャックとチャウの並々ならぬ信頼関係が伺える。

 笑ってしまうくらいのハードボイルドの最高沸点は、かつての遊び場だったクラブでのワイングラスをめぐる一幕であろう。彼らは年代物のワインを用意するが、互いに相手のグラスを割り合い、一向にワインに口をつける気配がない。ここのアクションは十分に様式化され、最後にはコインの遊戯にたわむれる。彼らは互いに情婦を連れてきているが、2人がサシで話し合いをする場面は遂に現れない。そして互いの組の抗争は最終段階に突入する。ジャックが組長のベイをかくまっている屋敷に、チャウが侵入するのは明らかであるが、それにしてもたった1人でジャックの手下を一掃するのにはさすがに驚いた。ジャックは光線銃に対し、照明を消して対処するも、時すでに遅しで、残されたのはジャックと組長のベイの2人だけになる。暗闇の中を互いに気配を消しながら近づき、弾が貫通した穴から打ち合う様はまたしても様式的な構図になる。最初、闇雲に乱射した互いの弾は的を外れているようにも見えたが、それは互いに貫通し、致命傷を受けた2人はその場に倒れこむ。

 だがヒーローは死なない。相当な至近距離からログハウスの壁伝いに拳銃を乱射し合いながらも、2人は辛くも一命を取り留める。ジャックは永遠の昏睡状態となりながらも、最愛の情婦の機転により、命だけは助かるものの、最愛の情婦は全身に大やけどを負うことになる。チャウは両脚を切断する手術を受けながら、車椅子で香港へ戻る。クライマックスの攻防や、クラブというロケーションは明らかに石井隆『GONIN』の影響だろう。ここではちあきなおみの『紅い花』ではなく、坂本九の『sukiyaki(上を向いて歩こう)』がジャックとチャウの友情を象徴する通奏低音として流れるのである。しかし彼らの友情は最後のクラブ内での銃撃戦にほんの一瞬だけ出て来るのみである。ラストの銃撃戦は、目の前で何が起きているのかさっぱりわからない。そもそも営業時間外のクラブならばこんなに照明を動かさないはずだが、ジョニー・トーの銃撃戦の様式美においてはそういうデタラメも何もかもが許されてしまう。右胸に致命的な銃撃を受けながらも、何とかここまで息をしていた顔面蒼白のチャウの姿は、心なしか『GONINサーガ』の氷頭に見える。
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