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灰とダイヤモンドの小のレビュー・感想・評価

灰とダイヤモンド(1957年製作の映画)
5.0
何も知らずに観てナニコレ感、知ったら傑作、もう1回観たい。

「午前十時の映画祭」は比較的気楽に観れる名作が多いけれど、本作は背景を知らないからか意味のありそうなシーンにハテナの連続で、時間が長く感じてしまった。

感想文を書くためにネットをググると町山智浩氏の解説動画が上がっていて、迷わずクリック。 知って納得。この映画、凄い。
(https://www.youtube.com/playlist?list=PLzq4h5Is2JgGTIit2TUiB8da2QE_BPNeT)

町山氏がまず「いきなり観てもサッパリわからないだろう」と話していて、ちょっと安心。動画は上映前に映画の背景となる当時のポーランド情勢の説明と、上映後の本編の解説に分かれているので、上映前の方をまとめて書いてみる。

歴史的にドイツとソ連の侵略を受けてきたポーランドは1939年、ドイツに侵攻された(第二次世界大戦が始まる)。戦車に騎兵隊で立ち向かったポーランドはボコボコにされた。

その後、ポーランドの抵抗勢力は3手に分かれる。①ロンドンに亡命し、同盟国とともに戦ったポーランド第二軍団(ポーランド亡命政府)、②イギリス、アメリカと組んだ国内軍、③ソ連と組んだ左派の共産党。

1944年ポーランドの独立作戦、ワルシャワ蜂起が勃発。亡命政府が主導して国内軍が蜂起し、それにあわせてソ連軍がワルシャワに入りドイツ軍を追い出そうというものだったが、ソ連は進撃せずポーランド国内軍を見捨てた。

ソ連が何故見捨てたのかといえば、資本主義側の人間をドイツ軍に殺させ、ドイツ軍が敗れた後のポーランドを支配しやすくするため。

そんな思惑を知らない純粋な国内軍は皆殺しに近い状態となり、追い詰められると下水道に籠り、何日間も糞尿の中、首まで浸かって逃げ回った。この時の模様を本作のアンジェイ・ワイダ監督による『地下水道』が描いていて、今、凄く観たくなっている。

で、このワルシャワ蜂起における国内軍のわずかな生き残りが、主人公のマチェック。共産党に怒り心頭の彼らはドイツが降伏した1945年5月8日、戦時中モスクワにいて戻ってきたポーランド共産党の幹部、シュツーカを暗殺しようとする。

この後のネタバレ解説は町山氏の動画を見て欲しいのだけれど、シーン、キャラクター、小道具、すべて(多分)に意味がある。戦争によって国民が分断され、戦後はソ連の支配下となるポーランドの状況が映像でキッチリ描かれ、『勝手にしやがれ』とか『マトリックス』などにつながっていく要素も。解説は「なるほど~」と思うことばかりだった。

私の感想をひとつだけ。タイトルのもととなっている本編にでてくる詩の一節。

《……君は知らぬ、燃え尽きた灰の底に、ダイヤモンドがひそむことを……》
(https://eiga.com/movie/47826/)

灰もダイヤモンドも同じ炭素でできている。ダイヤモンドは地中深いマントルで長い時間高温・高圧の状態にあった炭素が火山の噴火で地表近くまで一気に運ばれてくることできる。

共産党は暴力によって資本主義側の人間を灰にしたが、暴力は地中深くでエネルギーをためるマグマのような力を、暴力を受けた側に与えているのかもしれない。その力が爆発するとき、灰となった若者たちはダイヤの輝きを放つ。映画を灰にするはずの検閲が、本作をダイヤとしたように。

もう1回観て冷静に考えたいけれど、とりあえず今の気持ちは満点。
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