ケン・ローチ監督は自他共に認める左翼である。個人的には左翼は嫌いなのだが、それは現実無視のイデオロギーに酔い、教条主義的で無謬性を主張するその姿勢にある。一方で、監督の作品に通底するのは、人間らしく生きることを抑圧する社会への異議、反抗であり、その点においては大いに共感できるものなのだ。左翼というよりはロックなのだと思う。
理不尽な抑圧に命がけの抵抗を行った兄弟が、条約締結という束の間の勝利の余韻に浸ることなく、条約支持を巡って敵対する立場になっていく。小異を捨てて大同につくのを良しとするか、小異などではなくそれこそがまさにいちばん重要な譲れない一線であるのか。信義を貫くことは必ずしも「正しい」生き方ではないのかもしれないが、気高く尊いものである。