荒野の狼

鉄腕アトム 宇宙の勇者の荒野の狼のレビュー・感想・評価

鉄腕アトム 宇宙の勇者(1964年製作の映画)
5.0
「鉄腕アトム 宇宙の勇者」は1964年のテレビシーリーズの三話をまとめた映画だが、これを2025年にNHKがカラー化したものを視聴。私は幼少より長年、ヒーローもののファンであったが、恥ずかしながら鉄腕アトムは未見であった。それは仮面ライダーやウルトラマンなどに較べて、古くて魅力に欠けるように思えていたからである。本作を見て、アトムの造詣のシンプルさ、明るく正義感に溢れさっぱりとした性格、強さと弱さを兼ね備え、ストーリーも現代を先取りした深い内容、アトム自身が少年であるため本来の視聴者の対象である子供たちに共感を与えたであろう設定、などどれをとっても最高である。まさにヒーローものの原点にして頂点である。

第一話『ロボット宇宙艇』(TVシリーズ46話より)は、アトムの生い立ちが紹介されているので未見の人にも映画に問題なく入っていける内容。ロボットの指令で戦艦が瞬時に組み立てられ、それが戦争に使われたらという話は、現在、AIとドローンを使った爆撃が行われているものを先取りしている。指令するロボットがアトムのような正義の心を持っていても、システムが邪悪な組織に乗っとられれば世界戦争にも発展しうることが警鐘される。公開当時より、現在の方が強いメッセージになっている。本作では、世界征服を試みるベガ大佐の母親らしい一面も描いており、罪を憎んで人を憎まないアトムが、あっさりと、今後の会心を願って、なんのためらいもなく、ベガ大佐らを許す姿勢はすがすがしい。

第二話『地球防衛隊』(56話より)では、ロボットを「機械」として嫌悪し差別する人物が登場。そうした人物に対しても、アトムは怒ったり悲しんだりせずに、彼らの優れた能力は素直に尊敬し、行動を持って、偏見と差別を無くしていく。AIロボットが人格を持ち始めているような昨今では、近未来の問題として受け止められる話ではあるが、人種差別という問題にも敷衍できるテーマを扱った作品。

第三話『地球最後の日』(71話より)は、惑星の接近により地球が崩壊する危機にアトムが奮闘する。戦闘能力手は圧倒的な強さと、時には弱点も見せるアトムであるが、常にポジティブで諦めたり、悲観したりはしない。本作に登場する少年のロボットであるベムは、人間のような感情を持ち、自分の身を守って宇宙を逃げてきた設定。アトムの行動を見て考えを変えたベムは「しあわせって、人のために尽くすことなんだね アトム。君が教えてくれたんだよ。」と語る最終盤は、アトム本人の最後を予感させるものである。しかし、ここでもアトムは、涙をみせず、明るくベムを送り出す(感情を持ち、涙を流すロボットは第二話でも登場するので、ロボットが悲しまないという設定ではなく、アトムの性格と考える)。
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