エディ

東京暮色のエディのレビュー・感想・評価

東京暮色(1957年製作の映画)
3.5
未婚で妊娠したことで、出奔した母の汚れた血を引いているのではないかと苦悩する娘と、その父の姿を描いた小津作品。穏やかで平和な家庭のちょっとしたさざなみを描くテーマが多い小津作品にしては極めて激情的で重いテーマだ。それだけにぐっと来るものはあるけど、小津や小津作品の常連役者達の人柄の良さのせいか、苦悩を描ききれていないのも事実。

笠智衆演じる周吉は銀行の監査役で、長女は既に結婚し、今は次女明子と二人で暮らしている。しかし、その明子は学生の身分なのに帰りが遅く心配だが、周吉のことを疎んじているようで会話がほとんどない日々が続いている。ある日、評論家と結婚している長女が周吉の孫娘を連れて実家に帰ってきてしまったが、一方の明子は年下のダメ男に妊娠を伝えたところ逃げ回られたことで、精神的に追い詰められていく。
そんなとき、出奔した母が近所で雀荘をやっているという話を聞きつける。。。

小津作品は、登場人物の会話のキャッチボールがしっかりなされていく中で少しずつテーマを掘り下げていくことだと思うが、この映画の明子はコミュニケーションを全くしない異質な存在。最初から不機嫌で会話もないグレた不良女なので、彼女の心情が理解し難い。
ダメ男に妊娠を伝えた以降の苦悩は、出奔した母と生き様を重ねるような描き方で判るのだが、そうなるに至った経緯が全く見えない。
父周吉は人柄が良く穏やかだし、原節子演じる姉孝子も穏やかな性格。そんな中で、明子だけが道を外した理由があまりにも希薄なのだ。
それなのに、「やっぱり子供には両親の愛情が必要 お母さんが欲しかった」と言いきるのは少々乱暴に思える。

また、転落していく明子の周囲の人物の描き方もリアリティに欠ける。家族を捨てて出奔したのにあまりにも軽く爽やかな接し方の母喜久子、娘の金策の話を聞きつけながらもパチンコ屋で談笑する周吉、妹の変調に気付いているのに笑顔で縁談の話を進める孝子などは、これまでの穏やかな小津作品における登場人物のままの描写なので、明子だけが浮いてしまっているのだ。

まるでホームドラマのような穏やかで暖かい登場人物たちの中で一人もがき苦しむ明子になっているので、周囲にリアリティを感じないし、かといって明子に同情できるほど道を外した経緯が不明なので、ラストの主題が強引に思えてしまう。

「子供には母親の愛情が必要で、片親では限界がある」ということが言いたいのだとしたら、この映画は描ききれていないと思う。しかし、このこと以外に伝えたいメッセージがあるようには感じなかった。