ミ

東京暮色のミのレビュー・感想・評価

東京暮色(1957年製作の映画)
4.4
人間の猜疑心が暮色を夜へと染め上げる。
小津の完璧なまでの構図の隅から隅までを悲劇と葛藤、裏切り者たちへの憎悪が支配する。

冷たい東京の街。
寒空の下、屋根の下、どこを見渡しても自分の居場所は存在していない。
所詮人間は一人きりである。
突き詰めれば孤独に辿り着く。
暮色の時間が過ぎ、空は夜に呑まれる。
暗黒に潜む不快で醜い人間の闇がジワジワと迫る。
深い絶望と痛々しいほどの怒り。

他の小津作品とは何かが違っている。
今まで隠れていたもの(小津が意図的に隠してきたもの)を夜が暴いた、そう感じた。
家庭の崩壊を描く物語とは対照的な完璧に整理された構図と繋ぎ、軽快な音楽。
それらに逆らうかのように淡々と進んでいく悲劇への違和感。
ラスト、キャラクターそれぞれが直面する現実を映し出すことで、観客が今まで感じてきた違和感を払拭させ、物語の結末を自然な形で受け入れさせる。
最後まで希望を描かないという徹底さによって、観客は本作が他の小津作品と系統の違う完璧に設計された悲劇という事実を目の当たりにするのだろう。
ミ