MasaichiYaguchi

ツリー・オブ・ライフのMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

ツリー・オブ・ライフ(2011年製作の映画)
3.6
本作は、今年「名もなき生涯」が公開された巨匠テレンス・マリック監督の2011年のカンヌ国際映画祭パルムドール受賞作品だが、鑑賞して賛否両論になったのが分かる。
この映画は、混迷する現代を生きる或る男が、アメリカのテキサス州に住んでいた1950年代の家族の思い出を振り返るドラマと大自然を主体とした環境映像との融合と言えると思う。
私は、本作は「生命の連鎖」の最小単位である「家族」の肖像を描くことにより、その最小単位が地球にある万物、更に宇宙にまで繋がっていると云うことを映像詩で表現しているのではないかと解釈した。
そして度々挿入される印象的なシーンは、中年になったオブライエン家の長男・ジャックが、少年時代の両親や弟達を振り返った時の脳内のイメージを映像化したものではないだろうか。
だから途切れ途切れのイメージ、噴火、ビッグウェーブ、瀑布、土星、地球、恐竜、血液、ひまわり、ハイウェイ等の森羅万象がランダムに、家族との思い出に中に挿入されるのではないかと思う。
この作品で印象的なのは映像だけではない。
スメタナ作曲「モルダウ」が効果的に繰り返し流れ、家族の変遷をドラマチックに彩る。
そして幾つかの台詞、特に「あなたが愛さなければ、人生は瞬く間に過ぎ去っていく。」が心に残る。
主演のブラッド・ピットが演じる厳格な父オブライエン、ジェシカ・チャステイン演じる聖母マリアのような母、そして一家の大きな喪失である次男の死、この死の経緯は最後まで明かされないが、映画の冒頭で引用される神からの理不尽な試練に耐えるヨブを描いた旧約聖書「ヨブ記」が作品に影を落としていると思う。
テレンス・マリック監督は、人間は神の創造の一部に過ぎず、独善的で欲望にまみれた現代社会を生きる我々は一度始原に遡り、新たな地平を目指すべきだと描いているような気がする。