ニトー

雪国のニトーのレビュー・感想・評価

雪国(1957年製作の映画)
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登場人物が一面的でなく面倒くさいのがとても面白く、特に岸恵子の人間の女性的な面倒くささ(女性は男性に比べ精神的な繋がりを重視する、という生物の一部分)が溢れていて観ていて愛らしくもウザったいのですが、声音のせいでもあるのだろう。声とあざとい演技の相乗効果でウザったくも可愛い(「ウザ可愛い」という、ウザさが可愛いというのではなくウザさと可愛さが並列して現出している重層性)のである。

その重層性というのは、おそらくはその人生のがんじがらめな部分から来ている。池部良への愛欲と、それゆえに生じる伏した許嫁への罪悪感。「青い山脈」で特徴的な声で印象に残っていたので、すぐに池部良だとわかったのですが、こっちもこっちで男のプライドというか「女に言わせないと負け」とでも表現したい面倒くささとか、ともかくこの映画は人間のディテールを楽しめる。八千草薫の不平不満を募らせた演技もよござんすよ。この人も泥沼に片足を突っ込んでいて、最終的には沼に浸かってしまうわけですが。

「色は色、旦那は旦那」という至言が劇中の人物から岸恵子に向けられるわけですが、そんな簡単に割り切れるなら苦労しねーんだよ!というのがこの作品の構造そのものにあるわけで。

一種の、というか普通に男女の恋模様を描いた映画でもあるわけですが(特に前半)、昨今の義務的に作られている恋愛映画とは違って距離感を保っているのがクールで良かったです。「ここのカット今だったら絶対にバストのアップだろうなー」という部分もやや引き気味のカットで撮っていたり、それこそ本当にキスの瞬間に寄っていったりするくらいで、そういったベタつかない演出のおかげであくまで「人間の面倒さ」という構造を覆う表皮としての「恋愛」に留めているのがカッチョイイ。

あと細かいところで事後のシーンで岸恵子の着物の右肩の部分だけが少しはだけていたりとか、そういうエロさへのディテールも凝っているので観ていて面白い。

イタコっぽいあの人とか、出てくる人がみんな印象的でしたな。
まあごちゃごちゃ言わずに岸恵子に萌えるためだけに観るのもアリですが、こういう女が苦手な人もいる(というか自分もそういう部分がないわけではない。笑えるからいいのですが)ので、そのへんはあしからず。
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