ラウぺ

特攻サンダーボルト作戦のラウぺのレビュー・感想・評価

特攻サンダーボルト作戦(1976年製作の映画)
3.9
『エンテベ空港の7日間』関連で備忘録も兼ねて一通り記録。

1976年6月27日、アテネ発パリ行きのエールフランス機がPFLPとドイツの極左過激派「革命細胞」のメンバーによりハイジャック。機はベンガジ経由で親パレスチナの姿勢をとるアミン大統領施政下のウガンダのエンテベ空港に着陸。交渉による解放の望みが薄いと判断したイスラエルのペレス国防相の指示で救出作戦が練られていく・・・

元はTV映画で、製作は事件から間もない1976年、1977年1月8日にTV放送。(150分)
日本では『エンテベ急襲』の邦題で劇場公開の予定が中止となり、1987年にようやく劇場公開(126分版)。
1989年のゴールデン洋画劇場での放送ではウガンダを「ダウガン」、エンテベを「アンサベ」、アミンを「アモン」と吹き替えて放送。
2012年に発売された『オリジナル全長版』のDVDは収録時間145分。
89年の放送時の日本語音声が収録され、上記のなんちゃって固有名詞を確認できます。
吹き替えを選択した場合、日本語音声のない全長版の場面は正しい発音の日本語字幕が出るので、その対比がなかなか味わい深いところ。

映画はB級感漂う邦題からイメージされるチープさはなく、非常に真面目に作られたポリティカルサスペンス+戦争アクションといったところ。
救出作戦を立案するショムロン准将をチャールズ・ブロンソンが演じ、テロリストから人質、イスラエルの閣僚、アミン大統領に至るまで、事件の主要人物はほぼ網羅されており、群像劇としてそれぞれが過不足なく描かれているのは特筆に値すると思います。
進行は今のレベルで見るとゆったりした印象はありますが、当時としては普通な流れだと思います。
群像劇として所謂主人公に相当する人物は一応居ないのですが、やはりチャールズ・ブロンソンの存在感は別格。どこからどうみてもチャールズ・ブロンソンその人で、到底ユダヤ人には見えないところが問題だったりしますが・・・

物語の詳細は『エンテベ空港の7日間』と非常に似通っていて、共通する部分の多くはおそらく実際に起きた事実に基づいているのではないかと思います。
イスラエルの政治家としては『エンテベ空港の7日間』ではラビンとペレス二人に焦点が絞られていますが、こちらではそれ以外の人物も描かれ、野党の指導者としてメナヘム・ベギンが登場し、ラビンに協力を約束する場面も出てきます。
公開時にはまだ現役だったアミンも、尊大で自己アピールに執心し、上品とはいえない言動までもそのまま描写されており、ヤフェット・コットーが嬉々として演じる姿はこの作品の見どころのひとつ。
人質の様子も丁寧に描写され、後から見直すと死亡する人には全員フラッグが立つところがちゃんと盛り込んである丁寧さには驚きます。(笑

後半のヤマ場である救出作戦の場面は機銃の発射音などが画一的で、戦闘場面自体もやや古臭い印象はありますが、撤収までの一部始終が過不足なく描写され、物語の締めくくりとしてバランスよく纏められていると思います。
エンテベへ向かう機中で隊員たちが歌う歌(エンディングでも使用)は“Hine Ma Tov”(ヒネ・マ・トヴ)。旧訳聖書の詩編から歌詞が引用されているとのことですが、メロディはいくつものバリエーションがあるようです。

『エンテベ空港の7日間』ではまったく描かれなかったドーラ・ブロッホ(ユダヤ人の人質)についても冒頭からしっかり登場し、最後にテロップで1977年時点での消息がクレジットされる丁寧さ。
ここでは実際に起きたことの詳細は書きませんが、彼女の問題はアミンの残忍さやこの事件が手放しで全面的に成功したとはいえないものであることをしっかりアピールする姿勢には好感が持てました。
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