No.3304
『地獄のような家族なのに、なぜかジーンとしてしまう』
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デヴィッド・フィンチャー監督『セブン』や、スピルバーグ監督『プライベート・ライアン』などで使用された手法「銀残し」。
いわゆる画面の彩度を落としてコントラストを引き締める効果があるが、
その「銀残し」を世界で初めて実用化したのが、本作である。
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その何とも言えない味わい深い色味が、映画の中の時代(大正期)を表し、
同時に「すれ違いばかりで、お互いを非難し合う」げんの家族のヒリヒリした感じをも表現している。
暗い部分には何が映ってるかよくわからない点や、
彩度が低いために、人物の顔色が異様に悪く見えてしまうところなんか、まさにフィンチャーが『セブン』で使ったように、もはやホラー級の怖さすら感じる。
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前半は、とにかく、はっきり言って胸糞が悪い。
文句ばっかりで、何かといえば信仰にかこつけ、アイロンひとつかけようともしない母親、
家族のことをいろいろ考えてるようではあっても、結局、碧郎(へきろう)に甘い父親、
家は決して裕福というわけでもないだろうに、浪費癖が止まらず、ひたすら家族に迷惑をかける弟・碧郎。
そして、そんなどうしようもない家族のため、ひたすらに孤軍奮闘で献身し続ける姉のげん。
もう、げんさんの立場からしたら、見てるだけで発狂したくなるほどの地獄絵図である。
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そして、碧郎以外の3人の演技が神業である。
父を森雅之、母を田中絹代、そしてげんを岸惠子なんて、もう鉄壁のトライアングルである。
中でもとりわけ目を見張るのが、やはりレジェンド田中絹代である。
最初のうちはひたすら嫌な婆さんだなぁ、これじゃ『ミスト』で、信仰を盾にひたすら人々を煽り続けていたマーシャ・ゲイ・ハーデンそのままじゃないかw、
とイライラしてしまうくらいなのに、ラストでは彼女の演技に泣かされている。まさに唯一無二の女優である。
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