Kuuta

美しき冒険旅行のKuutaのレビュー・感想・評価

美しき冒険旅行(1971年製作の映画)
3.8
レンタルで見たが、今後も折に触れて見直す作品になると感じてブルーレイを買った。

女子高生と弟が荒野に放り出され、一人前になるための放浪の儀式(Walkabout)をしているアボリジニの少年と旅するお話。シャマラン「OLD」の元ネタの一つ。

ニコラス・ローグが撮影もやっており、オーストラリアの自然をノスタルジックでも神話的でもなく、努めて剥き出しの水や土として捉えているように感じた。ウォンバットがかわいい。

高層マンションに住んでいた少女は最初は「上」ばかりを目指すが、次第に荒野の平面的な世界を受け入れていく。狩猟や野宿を繰り返し、身も心もプリミティブに解放されていく姿は大変魅力的だ。

しかしながら、今作最大のポイントは終盤、一同が廃屋にたどり着いてからの展開だろう。

性のモチーフもふんだんに、生も死も大らかに捉える気持ちになる(ウジや動物の死体もどこか美しい)荒野を離れ、窓やドアを介した「普通の映画」のカット割が始まると、荒野の生活が何故かグロテスクに感じられてくる。

アボリジニの少年がこっちを見ている場面が、フレームを介するだけで途端にサスペンスフルになる。舞台の変化によって、視覚化されていなかった内と外の断絶、文明と自然の相容れなさが急浮上している。

自然vs文明の二項対立を煽る編集にはこの時代のカウンターカルチャーの香りを感じないでもないが、廃屋での断絶はむしろ、文明を知った我々は、どんなに意識を変えようが二度と自然には戻れない、という現実を描き出しているように思う。映画という制度からは逃れられない。

自然サイコーと気持ち良くなっていた中でのこの展開はなかなか絶望的だし、だからこそ結局「上」に戻るラストで強調されるように、誰しもが原始生活への憧憬を抱いてしまうのだろう。76点。
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