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ゲット・オン・ザ・バスのnetfilmsのレビュー・感想・評価

ゲット・オン・ザ・バス(1996年製作の映画)
3.8
 黒人の男エヴァン(トマス・ジェファーソン・バード)に連れられた少年ジュニア(ディオンドレ・ボンズ)は鎖のような縄に繋がれ、身動きが取れない。ジェレマイ(オシー・デイヴィス)は満ち足りた表情を浮かべながら、バスの最後列に乗り込む。1995年10月14日。2日後に首都ワシントンD.C.で行われる百万人の行進に参加するため、フクロウ号がロサンゼルスを出発する。デンゼル・ワシントンと共演するはずだったという駆け出しの俳優フリップ(アンドレ・ブラウアー)は、虚栄心だけはひとり前で、破局を迎えつつあるゲイのカップルを露骨に差別する。映画学校の学生エグゼビア(ヒル・ハーパー)はCBSのカメラだと言いながら、車中の混沌をクローズ・アップで切り取る。ベテラン添乗員のジョージ(チャールズ・S・ダットン)はそんな乗客たちをうまくまとめあげ、高らかに歌いながら黒人たちを鼓舞する。

 ネイション・オブ・イスラムの指導者ルイス・ファラカン師の呼びかけによって全米の黒人男性たち約150万人が首都ワシントンに集まりデモ行進をしたミリオン・マン・マーチ。ロサンゼルスからワシントンD.C.まで、およそ5000kmのアメリカ横断の旅は、黒人たちの思いを乗せたロード・ムーヴィーとなる。ハイウェイの休憩所で知りあった女の子たちを口説きながら、なだらかな道路を走るバスはエンストし、途中リック(リチャード・ベルザー)に運転を任せながら、黒人とユダヤ人の心の壁を前に断絶する。黒人相手の車販売を商売にするウェンデル(ウェンデル・ピアース)の皮肉に乗客たちは激昂し、彼を重い荷物ごと放り出す。宗教の教えに厳格に見えたジャマール(ガブリエル・カセース)のまさかの独白。それに怒りを表明する覆面警察官。やがてエヴァンとジュニアが一悶着起こすが、そうもしてはいられない大変な問題が勃発する。マイケル・ジャクソンの歌う『On The Line』、死をも覚悟した長老の5000kmとモニター画面から流れるミリオン・マン・マーチ。行き場のない怒りや悲しみを抱えながら、帰路に着く各人の表情は重いが、心は浄化され軽くなる。
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