鋼鉄隊長

ヴィナス戦記の鋼鉄隊長のレビュー・感想・評価

ヴィナス戦記(1989年製作の映画)
4.0
塚口サンサン劇場にて鑑賞。

【あらすじ】
人類が金星に移住して約半世紀。二大自治州のアフロディアとイシュタルは対立し全面戦争に発展。アフロディアの首都イオは陥落寸前であった…。

 かつて劇場で掛かったアニメは、「劇場版」と言うよりも「映画」と呼ぶ方がしっくりくる。一つの映画作品として洗練されているからだ。中でも今回の作品は究極の逸品。アメリカン・ニューシネマだった。
 金星植民地に暮らす青年たちは、戦争に負けた挙句に首都を放棄した祖国を軽蔑していた。さらに街は敵軍が包囲。遊び場だったスタジアムも奪われてしまう。彼らは腹に抱えた不満をぶちまけるように、刹那的な反撃作戦を計画する。若者たちには愛国心があるわけでも、戦闘経験があるわけでも無い。そこが物語を魅力的にしている。主人公ヒロの声を務める「少年隊のカッちゃん」こと植草克秀の演技も、若干素人臭い感じが突っ張った作風に上手くマッチしている。
 彼らが挑むのは、イシュタル軍の主力である多砲塔戦車「アドミラルA-1戦車」(通称:タコ)。超弩級のロマン兵器である。正面装甲は何と1,000mm! かつて世界を震撼させたドイツ軍の傑作兵器「ティーガー(タイガー)戦車」の10倍だ。履帯はT28重戦車を彷彿とさせる太さ! さらに兵装も凄まじい。160mm滑腔砲と200mmミサイル砲を装備。おまけに火炎放射機まで搭載している。まさにNbFzにトータス重突撃戦車を合わせて屈強にしたようなオバケ戦車!! その雄姿はトカゲを想起させると言われているが、確かに地を這う竜のような恐ろしさがあった。若造が束になった程度で敵うような代物では無い。
 大怪獣が如き戦車を前に、友情も青春も蹂躙される青年たち。反抗心を圧殺されるアンチ・ハッピーエンドな展開は、まさしくアメリカン・ニューシネマの香りが漂っている。あぁ、このほろ苦い気分で劇場を後にするのかぁ…なんて思っていたら事件が起きた。え⁉誰?この援軍?しかも、残党軍に入隊?首都奪還作戦? せっかくオチがついたのに変な蛇足が始まった。それはそれは興ざめだ。序盤の盛り上がりは失われ、平凡な戦争アニメに帰結してしまった。監督兼原作者の安彦良和は今回の興行不振でアニメからきっぱり引退したそうだが、その潔さは映画に分けて欲しかった。なぜ映画2本分の展開をまとめてしまったのか。
 ミニマムな青春物語で終えていればアニメ映画の傑作となったのに…。とは言え歴史の闇に葬られたからこそ、こうしてリバイバル上映されるほどのコアな名作になれたのだろう。日本でもDVD化されないかなぁ
鋼鉄隊長

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