青二歳

喜劇 爬虫類の青二歳のネタバレレビュー・内容・結末

喜劇 爬虫類(1968年製作の映画)
4.7

このレビューはネタバレを含みます

渥美清が好んだ渡世人稼業。今作はストリップのドサ回りを取り仕切る"自称インテリ"座長を好演。序盤は素直に喜劇だがラスト笑えない。ストリップ座の連中、彼らみんな戦争を引きずって生きている。1968年製作にして。

主題は一見すると、アメリカ女性を目玉にしたストリップ座のなんとも下衆で滑稽な珍道中。それに加え渡世人それぞれの悲哀と、爬虫類よろしく低血な、何かに麻痺した有り様…というところ。
「もしかすると人間はー爬虫類なのかもしれません…」

でもその悲哀が人情モノで済まない。よくあるシナリオでは、渡世人というのは不器用で、ひとが良いもんで他の人より要領が悪く割りを食う、そんな愛すべき奴らが出てくる人情モノになりがちですが。
キャクターが立ってるので、コメディとしては旨味があるものの、いまいち焦点がボケ気味だな…という印象が先に来るかも。

…実はこの渡世人たち、3人+1人はそれぞれ戦争を引きずったまま"戦後"に生きている。こうなると戦後というものは存在しないんですね。むしろ戦争の最中である方が救われるかもわかりません。

以下は設定。
渥美清演じる座長"自称インテリ"、通り名は先生。実はほんとに中学校の数学教師というキャリアの持ち主。
"特攻崩れの用心棒"、通り名はソロモン。なんでソロモンかと思ったら元帝国陸軍。ソロモン戦線帰還兵。復員後はヤクザ一家に足を突っ込んでいた。
"アメリカかぶれの雑用係"、通り名メリケン。なんでもアメリカがすごいと思っていて、その卑屈さと思考停止に気付いてもいない。
"欲求不満の元フーテン"通り名坊や。これは戦後世代。ベトナム戦争の戦況を追い、アメリカの欺瞞を笑う。一方"戦争"への強い歪んだ憧憬を抱く。いや、もはや歪んでるのでは無いのかもしれません。

そもそも、アメリカ女性を目玉に置いた一座というのが今見ると、いや多分当時もよっぽど滑稽。
どうも座長はこのアメリカ女性を見出す以前も、バタ臭い顔立ちの日本女性に、髪を染め青いコンタクトレンズをはめ"メリケンショー"なんぞやっていたらしい。
どうして彼は、また観客はアメリカ女性を有り難がるのか?…白人コンプレックスで済まない衝動があったんですね。アメリカ女性でなければならない動機がある。
このラストの開陳を受けて、この映画の背景が明らかになります。


1968年(男はつらいよ第1作の前年。寅さんを思わせる座長の話術秀でる口上はさすが渥美清)。
戦後20年を経て、この映画が作られたことの重みを感じます。戦後というが、戦争を終われない人がいて、戦後の変わり様に追いつけない人がいる。
そして新たなベトナム戦争がまた象徴的。
青二歳

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