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蜘蛛の巣のFilmomoのレビュー・感想・評価

蜘蛛の巣(1955年製作の映画)
4.4
①タイトルは、劇中ウィドマークの台詞「我々が勝手な欲望と感情で織り上げた“蜘蛛の巣”に若者は掛かってしまった」から来ている。それはまさに猜疑心や嫌悪感、現実逃避や虚栄心から生まれた行為や行動で、病院の運営責任者リチャード・ウィドマークは妻グロリア・グレアムとの現実逃避からローレン・バコール扮する新任医師に惹かれてゆき、事務方のリリアン・ギッシュ(名演)は、院内に良好な人間関係を構築できないために独断専行し、もう一人の理事シャルル・ボワイエとウィドマークの連携の無さが騒動を招きよせ、ウィドマークと話し合えないグロリア・グレアムがトリガーを引く。複雑な人間関係を場面転換と台詞で繋ぎながら、破綻することなく人生のある側面を深く描き切るヴィンセント・ミネリ監督の知られざる力作である。②この物語はウィリアム・ギブソンの小説をもとにしているので、そちらを読まなければ委細について語るのは不十分だと思われるが、1本の映画として観た時、騒動の発端から収拾までの中に、人間のあらゆる感情がひしめき合っており、興味がつきない。『走り来る人々』もそうだったが、人間は一人では生きることができない。そこで人と人の軋轢や衝突が生まれる。やがて勝手な想像や欲望によって、醜い人間関係が構築されていく。この関門を突破するには自分の弱さや、塗り固められた偽りをさらけ出すしかない。自分を突き動かす本当の感情に気づかなければならない。映画はそれをじっくりと描き出す。③この映画は豪華キャストだが、ローレン・バコールとリリアン・ギッシュが格段に良い。特に純真な乙女や、『8月の鯨』『狩人の夜』のような善人役の多かったリリアン・ギッシュの憎まれ役は素晴らしく、演技者・表現者としてのこの人の幅の広さに敬服する。ローレン・バコールは、離婚経験のある女性の役だが、魅力に溢れ、本作の重要な役を担っている。ボギーとの共演が有名で、タフな女性のイメージがあるが、ここでは精神患者のために尽くそうとする真面目な女性を演じている。ウィドマークと不倫関係に陥りそうになりながら、自らきっぱりと関係を断とうとする場面に、バコールの芯の強さや自立した女性の存在を感じ取ることができる。脇では対人恐怖症患者のスーザン・ストラスバーグが可愛らしくて、それぞれの役者の良い映画だった。
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