なべ

ゴースト・ドッグのなべのレビュー・感想・評価

ゴースト・ドッグ(1999年製作の映画)
3.3
 チグハグさやズレがジャームッシュ作品の味わいポイントだが、このキャスティングはズレ過ぎてて、当時はなんだかよくわからない据わりの悪さを感じてた。葉隠を座右の書とするサムライオタクの殺し屋って、ちょっと設定盛り過ぎなんじゃないのジャームッシュ、と。初めて観たのは世紀末だったけど、今なら別の見方ができるのではと改めて観直してみた。
 なるほど、昔ほどの違和感はない。左右で異なるウィテカーの目にも慣れたしね(かわいい右目と悲しげな左目とぼくは呼んでいる)。ちゃんとジャームッシュしてたわ。むしろ、ジム・ジャームッシュ入門編として推したいくらいのわかりやすさだ。
 本作はまずフォレスト・ウィテカーありきの企画だったらしい。彼が演じるにあたって一番らしくない役柄にしたくて殺し屋になったそうだ。どうりで!
 どちらかといえば安心できる愚鈍そうな黒人のフォレスト・ウィテカーが、あまり機敏とはいえない動きでマフィアを消していくのが見どころだ。これもジャームッシュ流のハズシなんだと思うけど、たとえばこれを緑の目を持つイケメン黒人ケンドリック・サンプソンなんかが演ってたらどうなってたろう? きっとエッジが効いたスタイリッシュなクライムムービーになってたはず。でもそうするとジャームッシュ作品ではなくなるよな。いや、ジャームッシュ作品にはなんかオシャレって風合いもあるぞ。そういう意味でオシャレ成分はゴースト・ドッグにはなくない?
 時おり挿入される葉隠の一説がオシャレなのか? いや、違うな。あれって章立てになってるようななってないようなで、ちょっと受け取め切れない。厨二のB級バカムービーでやられたら、全面的にすんなり受け入れられるんだけど、なんかマジなのかズレてるのか釈然としないんだよな。ウィテカーのドアップにスーパーインポーズされる葉隠。本人の朗読付きだ。カッコいいのか?笑うとこなのか? なんだかジャームッシュの初心者の感想みたくなってイラつくぜ。日本人じゃなきゃカッコいい側に付けたのに。
 マフィアの爺さんたちも見事にズレてる。組員の高齢化でシノギが芳しくないのか、家賃を滞納してて大家に怒られてるw ジャームッシュらしい半径10mのやさしい目線だ。絶滅危惧種を悲壮感を漂わせず、こういう近所の困ったおじいちゃん風に描かれると、とても得した気分になる。ほんと好き。やたらトゥーンばっか見てたり、ラップにハマってたりとか香辛料が効いてるのもいかにもジャームッシュ。
 こいつらを一人残らず(もとい一人を除いて)のっそりと消していくウィテカーが…ウィテカーが…えーと、なかなかだ。うん、少なくともカッコよくはないよな(カッコ悪くもないけど)。構えたライフルに鳥がとまるなんて「殺しの烙印」を彷彿させるシーンがあったり、アランドロンの「サムライ」のラストをそのまま引用したりと、知ってるとニヤッとできるシーンがあるけど、ぼくは引用元の方が好きだな。
 他にも英語が話せないフランス人アイスクリーム屋や屋上で船をつくるひとなんかも出てくるけど、ゴースト・ドッグの人となりを肉付けして見せるにはちょっとあざとい。今回観直してもそう感じた。
 逆に読書家の女の子はすごくよくて、彼女と読書感想のやりとりを重ねて、絆を深めていった方がよかったのにと思う。その方が葉隠が受け継がれた感がするもの。
 成長した彼女は紆余曲折を経て、やはり寡黙なアサシンとなり、ゴースト・ドッグを名乗るに違いない。実は他のジャームッシュの映画にチラッと出てたあの女性こそ二代目ゴースト・ドッグなのだ、とか妄想遊びがしたかった(してるけどw)。

 あ、ちなみに鳩は帰巣本能によって自分の巣に帰るだけで、いくら言い聞かせたところで、行ったことのない目的地には飛んで行ってはくれないからね、ジャームッシュ。

追記
 オシャレ成分の件。あれはジャームッシュならではの間とモノクロームの映像が醸してるのだと気づいた。ゴースト・ドッグもモノクロにして観たら結構オシャレに感じるのかもしれない。知らんけど。

さらに追記
 アイスクリーム屋とゴーストドッグが言葉は通じてないのに話が通じてる描写。何か引っかかるなあと思ってたら、ああ、かもめ食堂のもたいまさこだ。なるほど、荻上直子の作風はジム・ジャームッシュの影響大だもんな。そうとわかると、荻上直子作品も見返したくなってきたぞ。
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