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ゴースト・ドッグのnetfilmsのレビュー・感想・評価

ゴースト・ドッグ(1999年製作の映画)
4.1
 アメリカ・ニューヨーク、悠然と空を飛ぶ伝書鳩の視点から描かれた光景、飛ぶ鳩と街の俯瞰ショットの対比。古いビルの屋上に設置された掘っ建て小屋には、多くの伝書鳩が戻って来ていた。明かりの漏れる窓、中では一匹狼の殺し屋ゴースト・ドッグ(フォレスト・ウィテイカー)が、日本の武士道精神を語った古典『葉隠』を読んでいた。「武士道とは死ぬことと見つけたり」江戸時代、鍋島藩の山本常朝の記した“葉隠”の言葉。8年前、ゴースト・ドッグはフッドでチンピラどもに絡まれ、死ぬ寸前にイタリア・マフィアの幹部ルーイ(ジョン・トーメイ)に命を助けられる。それから4年後、不意にゴースト・ドッグはルーイの前に現れる。「あなたは私の主人だ」それ以来、ルーイは人殺しのテクニックに精通したゴースト・ドッグに伝書鳩を通じてコンタクトを取る。生い立ちも住所も動向もわからないゴースト・ドッグは、古いビルの屋上で刀のトレーニングに研鑽を積みながら、夜の街に繰り出す。大きなフードを被り顔を隠し、不似合いなアタッシュケース、車に乗り込んだ男はCD-Rを取り出し、プレーヤーの中へ入れる。ボリュームを上げたカー・ステレオから流れるHIP HOP。男はイタリアン・マフィアのボスの娘ルイーズ(トリシア・ヴェッセイ)に手を出したハンサムフランク(リチャード・ボートナウ)の殺害を請け負う。

 鈴木清順の『殺しの烙印』や『東京流れ者』、ジョン・ブアマンの『ポイント・ブランク 殺しの分け前』、ジャン=ピエール・メルヴィル『サムライ』への正統なオマージュである今作は、一転して組織から追われる羽目になる主人公の焦燥感を伝える。西洋哲学を真っ向から否定するような東洋哲学のテーマは、前作『デッドマン』との親和性も高い。『葉隠』の書に自身の人生を照らし出した男は、殺人の現場でルイーズの手から芥川龍之介の『羅生門』を受け取る。イタリアン・マフィアの癖にチャイニーズ・レストランで打ち合わせをするレイ・ヴァーゴ(ヘンリー・シルヴァ)の組織は既に高齢化の問題に直面している。メガネ姿で突如奇声を発する長老(ジーン・ルフィーニ)、ヴァーゴの右腕で、フレイヴァー・フレイヴの大ファンのソニー(クリフ・ゴーマン)、『フェリックス』などの子供向けアニメを真剣な表情で見つめる彼らのナンセンスでオフビートな日常。親友であるアイスクリーム屋のレイモン(イザーク・ド・バンコレ)とはまたしても英語と仏語のノンバーバル・コミュニケーションを取る男は、主人と組織の流儀の間で葛藤する。前作『デッドマン』から時空を超えて再登場したノーボディ(ゲイリー・ファーマー)の姿、ゴースト・ドッグの遺言を託された少女パーリーン(カミール・ウィンブッシュ)、物言わぬ黒い犬はじっとゴースト・ドッグを眺めながら吠声も発しない。全編にHIP HOPを鳴らしながら、武士道へ突き進む黒人の姿を闊達に描写した今作は、ジャームッシュらしいスタイリッシュな活劇に仕上がっている。
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