ろくすそるす

地獄曼陀羅 アシュラのろくすそるすのネタバレレビュー・内容・結末

地獄曼陀羅 アシュラ(1993年製作の映画)
4.6

このレビューはネタバレを含みます

 「ドゥルガーの女神の姿で復讐の女神は現れる……」

 インド映画のオールタイムベストというだけでなく、悪役が、これ以上ないくらい腹の立つ復讐映画。これほど恨みを蓄積していったリベンジ映画が他にあっただろうか。その意味では至上最も「ヘイトフル」なゲスの悪役が登場する作品と行っても過言ではないような気がする。何と言っても凄く強烈で濃厚な内容を壮大なスケールで展開するのだからハンパない。しかも、ダンスと歌ももれなくっついている(笑)
 けれども、エンターテイメントの装いをとっていながらも、物語自体は陰惨で本当に恐ろしく、業が深い映画に仕上がっている。
 絶世の美人のCA、シヴァーニは熱心な働き者で、競馬好きのダメな男に嫁いだ姉の分まで頑張って稼いでいる。
 そのシヴァーニに一目惚れしたヴィジャイは、金持ちのドラ息子であり、若き社長なのだが、一度惚れたら終生その女に憑きまとうという本当に迷惑なストーカー野郎で、何の予定もないのに飛行機に乗り込んでは、シヴァーニに何かとちょっかいを出し続けるのだが、彼女は男を袖にするのみ。
 そして、ドラ息子の努力虚しく、シヴァーニはパイロットの男性と結婚し、幸福な家庭を築く。ヴィジャイは血の涙を流して、自殺未遂を繰り返す。
 だが、問題はここからで、(オープニングタイトルのタイミングはここ!)ヴィジャイは、それでもシヴァーニに対する執着を持ち続けていた!

 げに恐ろしきは人間の独占欲、欲望。やがて男は狂気に至って女を奈落の底へと突き落としてゆく。その有様やあざとい手口、希望がことごとく裏切られていくさまは、非情を通り越してもはや絶望渦巻く地獄絵図。
 ところどころコミックリリーフもあるが(オカマの泥棒三人組)、本編がもはや笑えないくらい深刻な内容になってくる。ヴィジャイの犬畜生ぶりも酷いが、その周りにいる金で買われた悪徳警部・シンや金の亡者の義兄、サディストの女刑務所所長など、クズどもが、のうのうとのさばっているのが解せない。
 不条理極まりない生き地獄の中で辛酸を嘗める女たちの受難は、「男性優位社会」の残酷な現実を反映している。
 だが、全てを奪われ、陵辱の限りを味わったシヴァーニは、冤罪の果てに、女刑務所の中で「今に見ておれでございますよ」と、ついに復讐の鬼と化す。ここからの怒濤の復讐劇と最終部分の一ひねり効いた着地点が、もう圧巻。
 鑑賞後に圧倒的な疲労感を伴うが、それほどパワフルな大傑作だと思う。