Masayanyan

レッズのMasayanyanのレビュー・感想・評価

レッズ(1981年製作の映画)
4.8
素晴らしい。『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』『アラビアのロレンス』に並ぶ尺と重厚感。ダイアン・キートンの演技が神がかってるなー。ジャック・ニコルソン演じる男が未練がましくダサいけど、主人公2人の理想主義を一歩引いた所から観察し「所詮は中産階級の過激派でしかない」と切り捨てる場面が好き。感傷と陰影が美しいヴィットリオ・ストラーロの撮影も良い。

ジャック・リード(ウォーレン・ベイティ)は「農民と労働者のため」という革命当初の社会主義の理想からかけ離れていくソ連の腐敗と中央集権的独裁体制に裏切られ、それとともに政治目標のためなら家族をも犠牲にすべきと唱えたかつての自分と矛盾する形で、妻との断絶を理由に革命から離脱しようとするが出来ずほぼ永遠に妻と引き裂かれてしまう。
ルイーズ・ブライアント(ダイアン・キートン)も、ジャーナリズムに没頭し自由恋愛を謳歌していた夫が次第に権力闘争に没頭していく姿に失望し、民主主義擁護を掲げて第一次大戦に参戦しておきながら国内では反抗勢力を弾圧するウィルソン政権と議会によって扇動容疑で追及される。大国の論理に翻弄され引き裂かれる一夫婦の悲劇が見て取れる。夫婦のロマンスを映画の軸にしてるのが良いな。

「人間は個人であると同時に祖国の代表者でもある。妻を愛しながら革命に身を投じることもできるんだ。個人を抹殺すれば粛清に繋がり、革命は失敗する!」というリードの言葉からは、社会主義者であると同時に自由と多元主義の理想を追求するアメリカ人でもあった重層的なアイデンティティが強く表明されてる。その点では反共主義に突き進む祖国アメリカから拒絶されたのは皮肉やし、保守化を標榜するレーガン政権下でウォーレン・ベイティがこの映画を製作した価値はそこにある。
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