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ハワーズ・エンドのMrFahrenheitのレビュー・感想・評価

ハワーズ・エンド(1992年製作の映画)
4.7
「眺めのいい部屋」「モーリス」に続いてジェームズ・アイヴォリーがE・M・フォースターの小説を映画化した作品。誠実で美しい大作。

20世紀初頭のイギリス。偶然が重なり、シュレーゲル家、ウィルコックス家、バスト家の人々の人生が結びつく。郊外にウィルコックス家が所有する別荘「ハワーズエンド」とロンドン市街を舞台に、価値観や階級の異なる人たちが交流することで生じるドラマが描かれる。

街並み、内装、衣装、イングリッシュガーデンと文句なしに美しい。リチャード・ロビンズによる音楽も物語に完璧に調和している。オープニングでヴァネッサ・レッドグレイヴが薄明かりのハワーズエンドの庭を歩くシーンでグレインジャーのピアノ曲「婚礼のララバイ/Bridal Lullaby」が流れるが、物語半ばにエマ・トンプソンが初めてハワーズエンドに足を踏み入れる際にも静かに同じ曲が流れる。さりげなく物語を暗示する、映画ならではの演出も静謐で見入ってしまう。

視聴覚的な非の打ち所のなさは「美しい時代劇」だが、この物語で描かれる各家庭/各個人の価値観の違いや、生まれ育った環境の違いが決定的に感じられる瞬間は、いつの時代であろうと誰もが経験する現実の問題だろう。

ストーリーの中心となる理想主義のマーガレット・シュレーゲル(エマ・トンプソン)と、現実主義の経営者ヘンリー・ウィルコックス(アンソニー・ホプキンス)の2人が惹かれ、衝突し、変化していく様は、人と人が共に生きていくことの厄介さ、難しさと同時に希望が描かれている。

物語は様々な人間模様を映し140分の長さを感じさせない奥行きと見応えがある。ファンタジー的な話ではないが、家が人を選ぶような魔力めいた因縁の不思議さも心地よかった。終始上品で派手さはないが何度も見てしまう。私は大好きです。