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真昼の暗黒のtakatoのレビュー・感想・評価

真昼の暗黒(1956年製作の映画)
4.3
 あなたは無実の罪で突然で逮捕されたらどうしますか?。カフカの不条理劇「審判」のように不条理な現実。ダーク橋本忍全開の作品。「母なる証明」の反転版といった内容。それにしても今の日本は物騒で、昔は良かった的なことを言う人は、本作や「復讐するは我にあり」とか実録ヤクザもの見てないのかな?。犯罪率は、現在のほうが昔より遥かに低いって統計が出てるっての。


 実際の冤罪事件を元にした裁判ドラマ。単なる犯罪もので終わらない、日本の暗部を見事に描いてる橋本さんの眼光の鋭さよ。予断をもって捜査していた警察は、どんどん事件を捻じ曲げ自分たちの都合の良い供述を強制していく。しかし、間違っているんだから当然次々に矛盾が出てくる。それでも、もう体面という馬鹿馬鹿しい物が邪魔して間違いを認められず、犯人以上の罪を犯していく。即ち、不正を正へと丸め込もうとしていくのだ。オルテガ曰く、人間の最大の罪の一つは不正な状況を不正と知りながら受け入れてしまうことである。恐ろしいのは警察だけでなく、世間の良き人々とされるような連中も同断である。やったとか、やってないとかどうでもいいからとにかく謝っとけ式に罪を認めて大人しくしとけ!と圧力をかけくる。こういう波風立てるのは良くないって恐ろしさは、昔の話ではなく今の日本でも現前と存在している。

 単にシリアスだけ終わらないのが橋本忍の恐ろしさである。こんなシリアスな状況でもギャグをぶっこんでくる。調べれば調べるほどにおかしな点が出てくるのを弁護士さんが指摘して、時間通りに犯行を行うといかに無茶な状況かってのを再現する場面は完全にコメディータッチで描かれている。これも、こんな馬鹿げた話が正当化されようとしているという皮肉が見事に効いている。この前振りが、信じがたいラストの効果を増している…。

 この映画は、実際の事件後ではなく、正に進行中に作られたということを知るとより驚きが増す。事件について橋本さんたちが調査していく内に、これはどう考えても冤罪である!という方向から本作は作られている。もし、自分たちが間違っていたら映画作りから辞めようという覚悟の元に、未決事件に対する挑戦として本作は作られているのだ。そして、事件は橋本さんたちの考えた通り冤罪であることが明らかになった。勿論、事件解決は本作だけの力ではないが、その一助になったことを否定する必然はあるまい。社会正義を訴えるために、現実を動かすために映画はちゃんと力を持っていることが本作について知ればわかるだろう。
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