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フィッシュストーリーのtakのレビュー・感想・評価

フィッシュストーリー(2009年製作の映画)
3.7
 伊坂幸太郎の「フィッシュストーリー」を読み終えた。表題作は確かに突飛なお話ではあるのだが、関係をもたないはずの人々が奇妙な因果でつながっていく面白さが読んでいてとても心地よかった。そういえば、これ映画化していたんだっけ。早すぎたパンクバンドの音楽プロデュースを斉藤和義がやっていることもあり興味がわいてきた。斉藤和義信者的熱烈ファンの同僚に「映画観たことある?」と話しかけたら、サントラ盤CDと一緒にDVDを貸してくれた。

 運命的な出会いをする男女の物語、早すぎたパンクロックバンド逆鱗の物語、シージャックに巻き込まれた女子高生とその危機に立ち向かう"正義の味方"の物語、そして地球に隕石が衝突する危機が迫る近未来。時代が異なる複数の物語が交錯するのだが、決して複雑すぎたりしないのが好印象。そのキーとなるのは、逆鱗が最後にレコーディングしたフィッシュストーリーという曲。これが時代を超えて人と人を結びつけていく。伊坂幸太郎の文章の持ち味は読み手をノセてくれるテンポの良さ。原作の「フィッシュストーリー」はまさにそれが魅力だ。この映画化でもそれは失われることはなく、よく工夫されているように感じた。ただ映像化されると"都合のいい話"に感じられてしまうという意見もあるようだ。確かにそれはわからんでもない。それは僕らが日頃から都合のよい展開の映画に慣れてしまっていて、それと同列に見えてしまうからではないだろか。伊坂文学の映像化としては健闘している方だと感じるが。

 時代を表現するためにディティールが実に細かいのが観ていて楽しい。「呪いのテープ」としてカーオーディオに次々に押し込まれるカセットテープの懐かしさ。正義の味方になれ、と父親に教えられて育った男性が子供の頃の修行(笑)シーンは、「ベストキッド」でラルフ・マッチオがやっていた修行と同じなのには思わず吹き出した(洗車が窓ガラス拭きという違いはあるけれど)。同じ伊坂作品で3つの時代が登場する「Sweet Rain 死神の精度」でもミュージックショップが重要な舞台のひとつとなる。伊坂文学と音楽は切り離せない。斉藤和義がプロデュースした逆鱗の音楽もいかにも彼らしい作品。見終わってしばらくあの荒々しいリフが頭から離れなかった。
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