Mikiyoshi1986

王女メディアのMikiyoshi1986のレビュー・感想・評価

王女メディア(1969年製作の映画)
4.6
20世紀最高のソプラノ歌手と謳われた伝説の歌姫マリア・カラス、享年53歳。
彼女が死去してから今日でちょうど40年が経過します。

46歳に差し掛かった彼女の歌手生命にはいよいよ陰りが見え始め、最愛の人にも裏切られ、自らの人生を今一度見つめ直した時、
マリア・カラスが自身の心境を強く投影したとされるパゾリーニの長編8作目。

本作は数々の映画オファーを断ってきた彼女が生涯で唯一出演に応じた映画であり、
彼女自身もオペラの舞台で幾度となく上演を重ねてきたギリシャ悲劇「メデイア」を大胆映画化。
パゾリーニは斬新な演出によって独創性と瞑想性が混在する唯一無二の映像世界を呪術的に創造しました。

日本の地歌や筝曲を始め世界各国の民族音楽を取り込んだサントラ、
アフリカやトルコなど原始的な風景を映したロケ地、
パゾリーニ作品を中心にフェリーニやスコセッシの美術を手掛けたダンテ・フェレッティ、
ヴィスコンティ作品の衣装も多く手掛けたピエロ・トージなど、
それぞれの要素が国籍や時代の枠組みに囚われない自由な解釈を圧倒的なヴィジュアルに落とし込みます。

すべてを射抜くような鋭い目力、強い意志と哀しみを携えた彼女の表情には虚実入り乱れた感情が溢れており、
パゾリーニが彼女に敢えて歌唱を要求しなかった狙いは結果最大の利点ともなっているのです。

故国を裏切ってまで愛を貫きながらも、悲しい仕打ちによって復讐を誓うメディア。
彼女は"魔女"である以前に一人の女性であり、不運に立ち向かわなければならぬその姿に、我々はこの上ない同情と感動を禁じ得ないのであります。
Mikiyoshi1986

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