うべどうろ

アルファヴィルのうべどうろのレビュー・感想・評価

アルファヴィル(1965年製作の映画)
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Au revoir, Jean-Luc Godard

ゴダールが亡くなった。
僕はあまりゴダールの作品が好きではないのだけれど、その作品を体験するたびに、我が身を擦過していく“摩擦係数”のようなゴダールの個性は、映画史上類い稀な変数をもつ絶対的かつ不安定な魅力だったように感じます。
その存在は、映画作家として、思想家として、なにより“詩 poésie”に生きた表現者として、未来へと続く上向きの矢印のうえで、クリエイターたちの心に無限回蘇ることでしょうか。
だからこそ、ゴダールは「Adieu au language」という表現を使ったけれど、ここでは「Au revoir」と別れを言わせてほしいのだ。彼が生み出した“映画”という表現における新しい文体は、未来永劫失われることはないのだから。

追悼にあたりこの作品を選んだのは、「Alphaville, une étrange aventure de Lemmy Caution(アルファヴィル)」にはゴダールが描く表現者としての立ち位置がいくつか示唆されているように思ったからだ。

その一番は、この言葉にあるのではないか。
人工知能が問う。
「闇を光に変えるものは?」と。
主人公はこう答える。
「詩 poésie」であると。

思い返してみれば、ゴダールは「詩/言葉」の人ではなかったか。
だからこそ、「Adieu au language(さらば、愛の言葉よ)」とわざわざその表現に別れを告げて、遺作には「Le Livre d'image(イメージの本)」という表現を選んだ。「Language」から「Image」へ。その先に、ゴダールは何を描いていたのだろか。

「男性・女性(Masculin, féminin: 15 faits précis)」のレビューでも書いたのだけど、ゴダールは劇中で次のように語っていた。「映画監督と哲学者はその存在論と世界観において同じである」と。この文言には、ゴダールが生涯貫いた哲学者であり映画作家であるという姿勢(おそらく映画作家であり哲学者であるという姿勢では決してない)が込められているように、僕は感じた。そう、彼は何よりも“考える人”なのであり、そのモチーフは「Adieu au language(さらば、愛の言葉よ)」にも登場している。

しかし、こうも考えられないだろうか。「存在論と世界観において同じである」ということは、他に違う部分があるのではないか?という疑問が生まれるということだ。全てにおいて一致しているのであれば、そう語ればよいからだ。では、何が違うのか?
僕が思うには、きっとそれが「Language」であり、その先にある「Image」なのだと思う。ゴダールは、生涯を通じて、哲学者として、その思想を「Language」と「Image」が織りなす総合芸術としての映画という形に結実させたのではないか。その意味で唯一無二の映画作家であり、彼が生み出した映画的な文体は決して誰のものでもないゴダール自身の分身でもあって、それは元を正せば、彼自信の「思想」であり「思考法」そのものであるという証左なのではないか。

だからこそ、ゴダールの作品は徹底的にゴダールなのだ。
それは作品が「ゴダールらしい」とかいう次元ではなく、「ゴダールの生き写し」の登場人物が描かれるなどの演出的な問題でもない。観客の多くは、作品そのものにゴダールの肖像を感じ、“あぶりだし”のように作品からゴダールの肖像を探る。それほどまでにゴダールという存在は希求されるのだ。そして、ゴダールは作品をもってそれに答え続けた。最晩年まで飽くなき探求に挑み続けたゴダールの姿は、思想家として、表現者として、まるで弁慶のような勇ましさを感じずにはいられない。

好き嫌いを超越した絶対的な憧れが、少なくとも僕には抱かれる。

最後に、本作「アルファヴィル」から二つのことを引用して終わりたい。

本作の舞台「アルファヴィル」では、全ての感情がコントロール下にある。
その現状について、ある男がこう主人公に語りかける。
「芸術家はもういない。150光年昔の社会にはいたという、小説家、音楽家、画家のような芸術家」が、と。(要約)
そこには、決して「映画監督」あるいは「映画作家」は出てこない。
この表現は何を意味していたのだろうか?
主人公が鬱陶しいほどにシャッターをきり、光るフラッシュ。
ゴダールにとって「Image(映像)」とはなんだったのか。
あるいは「映画」とは。
また、彼にとって「感情と芸術」はどう結びついていたのだろうか。

もう一つ。
主人公は、自殺を促された上述の男に、こう問いかける。
「自殺も適応もできないものはどうなる?」と。

Au revoir, Jean-Luc Godard
勝手ながら、心からのご冥福をお祈りいたします。
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