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となりのトトロのKKMXのレビュー・感想・評価

となりのトトロ(1988年製作の映画)
4.9
 ちょうど劇場公開されていたので映画館で鑑賞しました。改めて観ると、トトロ傑作すぎるでしょ!ジブリ作品は割とどれも好きですが、ちょっとトトロは次元が違うかも。


 実は、トトロってマジックリアリズム的な作品だと感じました。トトロやまっくろくろすけはさつきとメイにしか見えておらず、すなわち子どもたち2人の心の中のイメージと考えることができそうです。

 彼女たちが抱くトトロのイメージは、母親不在の寂しさがルーツになっていると思います。人間の子どもは馬とかと違い、長い時間かけて養育されないと育つことができません。そのため、大人の庇護は不可欠なのです。
 また、人間の成長には養育者と子どもの間に生まれる情緒的な絆、つまり愛情も必要です。人間の子どもは、物理的な庇護だけでなく情緒的な庇護も必要となります。

 さつきとメイは、両親と情緒的な絆で結ばれている様子ですが、その一方である母親は入院加療中で長らく一緒に住めていません。そのため、どうしてもさつきとメイ(特に幼児のメイ)は不安定になりがちです。
 そこでその不足感を癒すのがイメージなのだと思います。森の主トトロは大きくてフカフカでおおらかな優しさがあります。たぶん、安心のイメージなのでしょう。バス停のくだりや苗を成長させる夢から、トトロはどことなくお茶目で一緒に遊びを楽しめる存在でもあります。
 2人はトトロのイメージでお母さんがいない寂しさを支えて乗り越えようとしているように感じました。
 最近はイマジナリーフレンド映画がぼちぼち目立ちますが、トトロはややそれに近い印象を受けました。
(イマジナリーフレンドは意識的な存在、トトロは無意識から浮かび上がる存在で、違いはあります)


 しかし、本作が特別な作品なのは、単にイメージを描いた物語ではないからだと思いました。本作の白眉は、イメージが現実の垣根を越えて、実際に現実に作用する点です。終盤に起きるメイの迷子事件では、トトロたちイメージの存在が現実を変えるのです。

 それまでのトトロたちは、あくまでもさつきとメイを心象として支えてましたが、この事件でトトロはネコバスを使って本当にメイを助けるんですよ!
 強い思いと強烈なエネルギーによって、我々が常識として捉えている外枠みたいなものがズバコーンと破れ去り、突き抜けたエネルギーが宇宙に達してK点超えの大変容が生じる。イメージが大きく動き、強い力で外界に作用した結果、まったく新しい現実が生まれます。これを我々は奇跡と呼ぶのだと思います。

 このさつきの祈りが生んだ奇跡が、めちゃくちゃグッと来るんですよね!ネコバスのキタキタキター!という強烈な高揚感!ドライブ感とスピード感が凄まじい。この渦巻く正のエネルギーにはただただ感動です。終盤に描かれる奇跡は、時間にするとほんの僅か、上映時間的にも5分くらいだと思います。しかし、この5分ですべてが変わる。
 本作のラストの盛り上がりは十分すぎるほどわかっちゃいたのですが、改めて体験するとやっぱり凄まじい!また、劇場で鑑賞したからこそ、本作のラストが持っている強烈なエネルギーを余す事なく体験できたようにも感じました。ネコバスから一気に突っ走ってアッという間にエンディングという猛烈な疾走感!今思い出しても震えますね、最高!


 他にもいろいろ感じることがあり、考察しきれないので箇条書きで記しておきます。


・ご両親の懐が深い
 2人ともさつきとメイに対して、否定することがないです。とりあえずなんでも受け止める。お母さんなんて、新しい家がお化け屋敷みたいだよという言葉に対して、「お母さんお化け屋敷大好き!」って返してますからね。
 この両親の元で育てば、内面ものびのびとしてくるでしょうね。だからこそ、さつきとメイはトトロと出会えたのかも。

・自然に感謝
 お父さんが神木の元に行ったとき、お礼をする感じがすごく良かった。神社とかでお祈りするときって、願い事とかでなく感謝を伝えるのが自然なのかなぁと考えていたので、お父さんの態度はすごく納得いきました。
 こういう姿勢があるからこそ、トトロはとなりにいることができるのですよね。自然に対する畏敬の念がなければ、トトロも姿を現さないでしょう。

・視点がフラット
 オープニングの『さんぽ』では、メイと共にクモとかゲジゲジとか結構ダーティな虫が描かれていました。花とかじゃないのが嘘臭くなくて信用できます。虫も木も花も妖怪も精霊も貴賎なく存在していることを大事にする姿勢が好ましいです。

・ハッとするカットが多い
 カエルが歩くシーンとか、カタツムリのショットが突如入るとか、さつきとメイが生きている自然を余すことなく映し出そうとするような演出が、本作のリアリズムに寄与していると感じています。それらが入ることで世界が息づくように感じます。いきなりヤギに遭遇するとかたまんない。

・カンタのツンデレがイイ
 ばあちゃんの孫カンタ。さつきの同級生であり、明確にさつきにゾッコンです。その態度が超ツンデレでいいっすね〜。さつきが傘を返しに来たとき、裏手でこっそりテンション上がっているシーンはニヤニヤしました。田舎の学校にさつきみたいな品のいい子が転校してきたら恋するのも無理ないね。

・ばあちゃんの手がデカい
 農作業をやり続けた人の手で、この辺もさすがのリアリティだなぁと感動です!

・唯一の欠点
 お母さんの前髪が若干ヘン。短いのでズラっぽく見えてしまう。病気感出したかったのはわかるけど、髪型フェチとしては気になって仕方なかったです!


 あと、前述した通り劇場鑑賞したのですが、近くの席にメイくらいの年頃の男児を連れた親子が座ってました。で、このキッズが意外とトトロマスターでして、割とお利口に鑑賞してたのですが、ネコバス直前になると「ネコバス来るよ、ネコバス来るよ」と興奮を抑えきれずにアナウンスしちゃってたのがラブリーでした。キッズよ、良い体験になったね!


 そんなこんなで本感想文が400本目と相成りました。
 今後も変わらず長ったらしい感想文を書き続けるので、これからもよろしくお願いします。人生は祭りだ、ともに生きよう、シェケナ!😎
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