沢田研二と菅原文太が共演した、長谷川和彦監督の代表作。
無気力な日々を送る中学校の理科教師が、原発からプルトニウムを盗み出して原爆を製造し、国家相手に闘いを挑む。
「この街はとっくに死んでいる。すでに死んだものを殺して何の罪になると言うんだ。」
「ふざけるな!お前みたいな人間に人を殺す権利などあるものか。お前の殺していいたった一人の人間は、お前自身だ。お前が一番殺したがっている人間は、お前自身だ。」
うぉー、これは凄い!胎内被爆者である長谷川和彦監督が世に放った、エネルギッシュな反体制的クライム・サスペンス。昭和の熱い魂に、酷く胸を打たれた。劇物ではあるが、無論、傑作だ。
カルト映画と語られることが多い作品とのことだが、私の目には正統な"日本版アメリカン・ニューシネマ"と映った。確かに、漫画的なコメディ展開も散見されるが、物語の根幹にあるのは、ごく普通の一般人が抱く社会への絶望だ。
原案・共同脚本がポール・シュレイダーの兄レナード・シュレイダーということもあり、原爆テロリストとして暴走する城古誠の姿を『タクシー・ドライバー』のトラヴィスの姿に重ねてしまう。城古の原爆が、トラヴィスの銃である。都会人の孤独、生き甲斐が見出せない虚無感、世の中に対する漠然とした不満や苛立ち、死にたくても死ねない苦しみ。行き場の無い負の感情が渦巻く。
唯一の被爆国であり、非核三原則を堅持する日本において、アパートの一室で独力で原爆の製造に成功してしまった天才科学者・城古誠。これには、原爆の父オッペンハイマーも腰を抜かすであろう。バスジャック犯から生徒たちの命を守った"市民ヒーロー"が、国家転覆に繋がりかねない"原爆テロリスト"へと変貌してしまう危うさがある。《鉄腕アトムのテーマ》♪を口ずさみながら、原爆作りに没頭する姿が忘れられない。
城古のキャラクターの興味深い点は、自分でも何がしたいのか分からないまま、テロ行為に突っ走っていること。世界一有名な理科系犯罪教師と言えば、 『ブレイキング・バッド』のウォルター・ホワイトだろうが、彼が金や名声を得ることに執着していくのとは対照的である。
アクションシーンも見応え十分。公道で繰り広げられる激しいリアル・カーチェイス。伝説的カーアクション映画『バニシングIN60"』を彷彿とさせるラストの特大カージャンプ。ヘリコプターの足にぶら下がる菅原文太もスリルがある。
未だ癒えない戦争の後遺症が随所に垣間見える。息子を戦争で亡くし、天皇との直談判を要求するバスジャック犯。脱毛、歯茎から出血といった被爆症状。戦争を経験した団塊の世代と戦後に生まれたベビーブーマー世代の、原爆に対する認識の違いみたいなものも指摘されているような気もした。
血が滾るような熱いロックと、哀愁漂う美しいジャズのコントラスト。
反抗の象徴としての風船ガム。
原爆テロリストの要望で、ローリング・ストーンズの初来日公演が実現しま、、、、。
沢田研二と菅原文太の演技合戦が熱い。『HOUSE ハウス』や『冬の華』の池上季実子が、原爆犯と共犯関係になる浮世離れしたラジオDJを好演。サラ金取り立て役でチョロっと西田敏行。
「お前が一番殺したがっている人間はお前だ。死ね。」
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