LalaーMukuーMerry

太陽を盗んだ男のLalaーMukuーMerryのレビュー・感想・評価

太陽を盗んだ男(1979年製作の映画)
4.2
1979年にこんなのがあったのですね。オタクの先駆けとでも言えそうな高校の理科の先生(=沢田研二)。化学の実験器具、グローブボックス、ガスバーナー…、彼のアパートの一室にはこんなものが所狭しと並び、頑張って作ろうとしていたのは・・・ゲ・ン・バ・ク
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・まず東海村の原発に潜入して、燃料棒を1本盗み出す(おいおい!)
・中身のプルトニウムPu239の硝酸液(紫色の液体)にシュウ酸を加えてシュウ酸Puの沈殿をつくる
・これをろ過、乾燥させた後、熱処理して酸化Puの粉末にする
・これにフッ酸を加え反応させてフッ化Puにする
・次にMgと混合して加熱、フッ化Puを還元させて金属Puにする
・できた金属Puを坩堝にいれ、電気炉で溶融させ(溶融温度は約640℃)、球型鋳型に流し込む
・冷えた金属Puを取り出し研磨して球にする(これで臨界量の金属Puの出来上り) 金属Puの臨界量は5.6kg、密度は19.8なので、臨界量の球のサイズはわずか半径4.1㎝
・爆縮型の原爆とするために、丈夫な球形の金属容器の中心に金属Pu球を置き、その周りにTNT火薬を詰める(花火のような感じ)
・その周りに時限起爆装置をとりつけたあとで
・全体を球形の容器で被う
♫ これで原爆の出来上がり~!
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原爆を個人で所有した人間は、どんな気になり、何ができるのだろう?
普通の人はまず思いもつかないような問いに対する、主人公の答えはアホらしいほどのことだった。国家・警察は事件を秘密にしたいから、犯人のアホらしい要求をのまざるを得ない。これが核の力か~って、ちょっと悪ふざけが過ぎた感もありますが、よくこんな作品を作ったな、作らせたなと感心します。
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テーマも、その扱い方もとてもエキセントリック。映画の制作姿勢も今では考えられないもの。皇居前広場でのゲリラ撮影、有名女優(池上季実子)を3mくらいの高さからヘドロの海へ放り投げる、都内の道路を使った派手なカーチェイス、高度が高すぎるヘリコプターからの飛び降りスタントシーンなどなど…、印象的なシーンだらけ。カルト的でもあり、コアなファンが多いというのもうなずけます。
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大きなお世話だと思いますが、福島原発事故以来、原発のことは少し詳しくなったから、間違い(と思われる点)を指摘(何の知識もない当時リアルタイムで見ていたら鵜呑みにしたかもしれないけど)
・燃料棒:
原子炉の核燃料棒の中身は液体ではなく固体。

・核燃料の成分:
主成分は酸化ウラン(U235とU238)、このうち核反応を起こすのはU235の方で、その割合は0.7%しかない。これを遠心分離器などで2~5%まで濃縮したものが核燃料(原爆に利用するにはより高濃度の核燃料が必要)。映画のようなプルトニウムPu100%のものが使われることは決してない。Puは自然界にはなく、原子炉の中でしか生まれない物質で(U238が核反応でPu239になる)、Puが生じても核燃料の主成分は依然としてウラン。

・プルトニウムの毒性(放射能):
Pu239の毒性はU235の約3万倍。映画のような透明プラスチックの板一枚隔ててゴム手袋でPuを触っていては、大量被曝してたちどころに死にます。

・臨界量のPu:
(100%Puの原料をつくることはほぼ不可能だが、もしできたとすると)金属Puの臨界量は5.6kgだが、その量を球体にしたらその時点で連鎖反応が進んで大爆発がおきるか、大量の放射線が発生するので、主人公はあの金属Pu球体をつくった時点で一巻の終わりです(映画のように髪が抜ける程度では済まない、東海村の臨界事故(1999)もあったよね)。

・爆縮技術
原爆は連鎖反応が起こらない程度に密度の低い状態でPuを内部に保っておいて、周囲のTNT火薬の爆発による内向きのエネルギーでPuを圧縮して臨界状態をつくるというもの。これは周囲に配置した多数の火薬を同時に(ズレがおそらく1ミリ秒よりずっと短い程度に精密に制御して)爆破させて、生まれた衝撃波の圧力を同時に中心部にかける必要がある(これを爆縮レンズという)。この技術が原爆製造の一番難しいポイントで、マンハッタン計画で科学者たちが最も苦労した高度な技術だ。映画のように一人の理科の先生が手作りして一発で簡単にできるものでは決してないです。