しんご

メメントのしんごのレビュー・感想・評価

メメント(2000年製作の映画)
5.0
少々ボケたお爺さんやお婆さんが同じ話を何回もするのにウンザリした経験をした方も多いとは思いますが、この「ボケ」には理由があると紹介する番組が興味深かった。加齢すると一般的に足腰や目が弱ったりするから「新しい体験」をする機会が減る。それでは日々が退屈になるので脳が昔の記憶を少しずつ消去するのが「ボケ」の構造で、それによりお爺さん達は昔の話をいつまでも新鮮な気持ちで繰り返し話して退屈を回避することが出来るそうだ。

上記の番組内容とこの映画は構造的にとても似ていると思う。「ダークナイト」(08)、「インセプション」(10)、「インターステラー」(14)と名作を放ち続けるクリストファー・ノーラン監督だが、これらの作品を以てしても未だに本作は越えられていない。ノーランの才能が「記憶」という人間の根源的な機能に切り込んだ紛れもない傑作。

愛妻を殺されたレナードはそのショックで記憶が10分しか保持できない状態に陥るが、このハンディの関係で本作は結末を先に見せ時間軸を10分毎に逆行させる、という非常に斬新な構成で幕を開ける。

時間が逆行するにつれ観客は彼が色んな人間に騙されていることを知る。レナードは調査のためにあるモーテルを常宿としているが、記憶障害があるため違う部屋まで借りさせられていたりする。その後に出会った女にも都合よく騙され、という展開には誰もがヤキモキするだろう。

そんな経緯を経てレナードがいかに復讐を完遂するのか...と思った果てに突き付けられるあのオチには完全に騙されたし唸った。あれを観ると彼が今まで遭った「詐欺被害」が全て可愛いものに映ると言わざるを得ない。カタルシスの類たるどんでん返しではなく、一言で表現すれば「切なすぎて辛い」。人の「自我」や「生きがい」もやはり「曖昧な記憶」の上に成り立っていることを実感させられるし、ここに本作の真髄があると悟った。

難解なようで実は非常にシンプルな映画。
しんご

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