カツマ

メメントのカツマのレビュー・感想・評価

メメント(2000年製作の映画)
4.1
砕かれた記憶の破片。バラバラのピースをどうにか拾い集めても、完成するのはイビツなままのモンタージュ。そう、追憶の底で稲光るフラッシュバックが、何度でも時計の針を巻き戻すのだ。結末から始まり、結末で終わる。時間軸の魔術師クリストファー・ノーランの降誕を刻み付けた現代最高峰のフィルムノワールの姿がここにはあった。

今やヒットメイカーとしての名を欲しいままにしているノーランだが、この『メメント』で確立した時間軸の分解と再構築はその後の作品にも応用され、彼の作品に『難解』というイメージを植え付けた。それに加えて心理サスペンスとしての枝分かれした解釈の多様性を提示し、パズルのピースを鑑賞者の手に握らせる、考察型の作品としての金字塔をも打ち立てた作品だ。

〜あらすじ〜

レナードは10分しか記憶を保持できない男。妻を何者かに殺された時、彼も頭部に重傷を負い、それ以降の記憶は戻ってこないままだった。そこで彼は『絶対に忘れてはならないこと』を自らの身体にタトゥーとして刻み、会った人物はポラロイドカメラで撮影してメッセージを残していた。
・・・レナードは見知らぬ部屋で目覚めた。記憶は無くなっているため、まずはメモ書きとタトゥーで状況を把握していく。レナードはモーテルの管理人にテディという男のことを尋ねると、首尾よく当の本人が目の前に現れ、レナードの友人だと言い出した。だが、ポラロイドカメラで撮られたテディの写真には、彼こそが妻を殺した男だと書いてあった。レナードはテディを殺そうとするも、そこで記憶は巻き戻っていった・・。

〜見どころと感想〜

この作品は00年前後に勃興したミニシアターブームを牽引した作品の中の一本で、当時からその斬新な手法と何通りにも解釈可能なストーリーには、新時代の才能の誕生を予感させるほどの巨大なインパクトを残していた。それから20年近くが経ってもこの映画は難解だ。解けるはずのない答えを観客一人一人に問いかけながら、実際この映画自体の解釈は劇中の時間のように進んだり戻ったりを繰り返している。

時間軸が戻っていく中で、レナードの記憶は嘘偽りで塗り固められ歪んでいく。真相は他人の嘘でボカされながら、その実、記憶とは本人の意思そのものの産物。鍵を握っていたのはやはりレナードであり、彼が一人称で語られる意味、それは我々の記憶をも屈折させると共に、レナード自身の精神世界の傷口が開いていくのをただ見ているかのようだった。

〜あとがき〜

18年ぶり2回目の鑑賞でしたが、はじめて見た時よりは理解できたと思います。ただ、逆に解釈の膨大さにも気づいてしまい、結局この映画には答えなど無く、考察させることを鑑賞者に促していることこそがノーランの施した問いかけなのでは、という想いが強くなりました。

謎は去り、また新たな謎を作る。見るたびに発見があるからこそ、この作品は長く名作として語り継がれるのでしょう。
カツマ

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