yoshi

ICHIのyoshiのネタバレレビュー・内容・結末

ICHI(2008年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

時代劇は日本人の心
武士道は日本人の道徳です。
期待せずに見たが、意外な拾い物だった。
座頭市の女性版。ストーリーのプロットも同じ。
流れ者が無法の宿場町で悪を倒す、勧善懲悪。
しかし勝新太郎の座頭市と比較され、ネット上の評価も芳しくない。
作りとしても、はっきり言えばB級映画です。

ならば、どこが良かったのか?
綾瀬はるかの努力が、とても素晴らしい!!!!!(強調)のである。

私は彼女のファンではなかったが、一気にファンになりました。
テレビや映画でコメディエンヌの役柄が多いだけに、勝新太郎の座頭市を真似て、コミカルな演技をするのか?と思っていた。
いやいや、シリアスな演技である。

生来目が見えない役。
人の表情を見たことがないため、表情での感情表現ができないことを良く理解していて、終始無表情で人形のよう。

(しかしその分、アップになると当時二十歳そこそこの若い彼女の肌のきめ細かさ、顔面の造形の美しさが強調される。)

勝新座頭市の職業は按摩(マッサージ師)であったが、彼女は瞽女(盲目の女芸者)で三味線と歌という芸がある。

お座敷に呼ばれ、乞食同然の姿から、おめかしした姿は男なら「ほほう」と声が出てしまう美しさである。
(監督はこのギャップを取りたかったに違いない。)

しかし彼女は自分の美しさを自覚していないため、何より人間を嫌う世捨て人であるため、照れも嫌悪も表情に決して表さない。(回想シーンは別)
勝新は表情豊かだったが、綾瀬はるかは、語気と眼力の強弱だけで感情表現し、表情筋を全く動かさない。
徹底した役作りである。

勝新座頭市は終始目をつぶり、または白目をむき、盲目を表現していたが、綾瀬座頭市は、ずっとまばたきせず、目を見開いたまま、虚空を見つめている。

激しい動きの殺陣の最中も、空っ風が舞う宿場町でも、全くといっていいほどまばたきをしない。

さぞ、目に土埃が入っていたかっであろう。可哀そうに…
もう、これだけで彼女の役者魂がうかがえてしまうのである。

そして何といっても殺陣である。
勝新が太い腕の筋力で刀を素早く抜き、相手の体に刃を滑らせるようにして斬るのに対し、綾瀬座頭市は筋力のなさから、居合いは決して速くないが、前傾姿勢の体重移動で、刀にある程度体重を載せて敵を斬っている。

敵が上段の構えに対し、胴を狙うのが多いのはその説得力を持っている。
そして女性だけに舞うように回転し、遠心力も加えている。
足さばきも体幹がとれており、よろめく気配がない。

「るろうに剣心」がワイヤーに引っ張られて足元が不確かだった殺陣に対して、(好きですけどね、るろうに剣心)スローの撮影が多く、体の動きがじっくりと見て取れる。
そうとうな練習を重ねたはずだ。

冒頭のセリフをもう一度。
綾瀬はるかの努力が、とても素晴らしい!!!!!(強調)のである。

共演の男たちが頼りないのは、彼女の引き立て役か?
悪役が動機不明な上、迫力が今一つなのがもったいない。

途中から大澤たかおの役が主役か?と思うほどストーリーを回してしまうところなど、もっと脚本と演出に改善の余地があった。
何とももったいない。

綾瀬座頭市は、最後に微笑む。
(アップのスローにしてほしかった!)
大澤たかお演じる、藤平十馬から思いやりの心「仁」を学んだのである。

「仁」… 偶然かな…?

座頭市を知らない若い人に見て欲しい。
これは勝新とは別物として見ると結構面白いですよ。
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