「私のアパートの部屋は、冬は寒くて寝られない。夏は暑くて寝られない。その三畳の部屋から見えるあなたの家は、天国みたいに見えましたよ」
すごい、すごいものを観た。
誘拐事件の犯人を追うサスペンスものかと思いきや、それだけじゃないの。この映画には寂しさや憎しみや、そういう心の闇が存分に描かれていて、ラストカットは本当に切なくなります。
企業のお偉いさん権藤(三船敏郎)に一本の電話。
「お前の息子を誘拐した」
しかし誘拐されたのは、権藤の運転手の息子だった。
5000万円の株を買うか?
3000万円で子どもの命を助けるか?
自分の生活を死守したい権藤
なんとかして子どもを救いたい運転手
その様子をじっと見守る警察
権藤を追い詰め、苦しめる犯人
やりとり、一言一言に目が釘付けになります。
なんといっても、後半。
麻薬中毒者のたまり場の圧倒的な迫力。
そして、禁断症状で幻覚を見る女の静かな狂気。
この場面、鳥肌が立つほどスゴイんです。
「君はなぜ、君と私を憎み合う両極端として考えるんだ」
自分は不幸だと決めつけることで、自らの行いを肯定しようとする犯人。
でもね、どうしても本当の悪人には見えないの。
「死刑は怖くない」と笑いながら、やっぱり寂しそうで。
彼の強がりは権藤さんにも伝わる。
だからこそ、責める気にもなれないんだよ。
「幸福な人間を不幸にするってのは、不幸な人間にとって、なかなかおもしろいことなんですよ」
「君はそんなに不幸だったのかね」
この会話にジーンときて、なんだか抱えていた鬱憤が少し晴れたような気がしました。
人生どん底で、もうどうしようもない。
そういう時に、また観たい映画です。