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天国と地獄の小のレビュー・感想・評価

天国と地獄(1963年製作の映画)
4.1
「午前十時の映画祭8」にて鑑賞。今の時代から見ると、どうなのよ? と思うようなところは多々あるけれど、緊張感が途切れず面白いのはさすが。

観客は、他人の子どもの誘拐事件のために全財産を投げ打つかを迫られた靴会社の生産担当重役・権藤に感情移入し、彼と対立する他の重役たちや犯人への怒りがたまってくる。だから、権藤に同情する世論に共感し、権藤のためにも何としてでも犯人を捕まえ、厳罰を与えようとする刑事たちを応援したくなる。

現金の受け渡しに鉄橋を利用する犯人の非凡な手口、犯人の手がかりを鮮やかに示すシーンなど、こだわりの見どころも多い。

この映画の手口を真似た誘拐事件が発生する一方、製作動機のひとつでもあった誘拐罪に対する当時の刑罰の軽さが問題となり、公開翌年となる1964年の刑法改正のきっかけとなるなど、社会への影響力が大きかったようだ。

黒澤明監督作品が名作なのは、優れたエンタメ性に加え、人間の内面をきっちと描くから。権藤も犯人も、社会地位や貧富の格差に囚われているのだけれど、権藤は事件によってそのことと向き合い、悩みに悩んで決断したことで呪縛から解放されたように思える。一方で犯人は事件を起こすことで、その呪縛にますます強く囚われていく。

そう考えると、見終わった直後はナニコレ?と思ったラストシーンについて自分なりの解釈ができてくる。自分の行為が自分にとって正しかったのか不安だった犯人は、気付いてしまったのではないだろうか、自分の足元に引きずり下ろしたと思っていた権藤は、自分の手の届かない遠いところに行ってしまったことに。

劇中、刑事達から「鬼畜生」だと言われていた犯人。見た目にはそう見えず、本人も自覚はしていなかっただろうけれど、最後の最後に気付いてしまったのではないだろうか、自分が「鬼畜生」になってしまったことに。

●物語(50%×4.0):2.00
・粗は感じるものの、退屈なく、面白い。

●演技、演出(30%×4.5):1.35
・多額の費用がかかる特急のシーン、緊張感凄かっただろうなあ。

●画、音、音楽(20%×3.5):0.70
・いつもながら、熱さを感じる。
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