こたつむり

天国と地獄のこたつむりのレビュー・感想・評価

天国と地獄(1963年製作の映画)
4.4
★ これが映画ですよ。ね、権藤サン。

圧巻でした。
凡百の作品とは厚みが、太さが、深みが違います。この手触りは邦画というよりも洋画。なるほど。これが“世界のクロサワ”なのですね。

正直なところ、最初はナメていました。
台詞は説明調だし、昭和の言い回しが鼻に付くし。箪笥の奥にある防虫剤の臭いがキツイなあ…なんて考えていたのです。

しかし、言語が違う洋画でも魂が震えるように。本当に素晴らしい作品は台詞回しなんて関係ない…のかもしれません。気付けばグイグイと惹き込まれ、エンディングを迎えた後の余韻と言ったら…ッ!鳥肌が引きませんでした。

しかも、激しさだけではないのです。
誘拐映画のパイオニアとして名を残したのは伊達ではなく。物語のキモである金の受け渡しから、犯人を絞り込んでいく組織的な捜査まで…緊張感に満ち溢れていて胸の高鳴りが抑えられないのです。

それに役者さんたちが格好良いのですよ。
三船敏郎さんの凛とした佇まいからは想像がつかない苦悩。仲代達矢さんの飄々とした雰囲気の隙間から伺える切れ者具合。そして、何よりも当時は新人だった山崎努さん…なんですか、あの狂気は。

そりゃあ、黒澤監督が揺さぶられるわけです。
話によると圧倒的な演技の前にプロットを変えたとか。完璧主義者と評判の監督さんに届くほどの熱量たるや…ッ。観客側の想像力に訴えかける…これを“名演技”と呼ばずして、何を呼ぶのでしょうか。

まあ、そんなわけで。
サスペンスの歴史に燦然と輝く金字塔。
本作をネイティブの言語で鑑賞できる幸せは唯一無二。また、白黒映画ならではのサプライズもありますから…敷居の高さに尻込みするのは勿体ない話ですよ。

あと、昭和マニアには嬉しい場面も多く。
大衆酒場のような場所で踊るところから始まって(あれが…噂のツイストッ!)134号線から江の島を望んだり、阿片窟のような黄金町が怖かったり…とおなかいっぱい。

時間があればロケ地巡りをしてみたいなあ。
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