わきお

天国と地獄のわきおのレビュー・感想・評価

天国と地獄(1963年製作の映画)
4.7
今こそ見たい傑作

大手シューズメーカーの重役を務める権藤。野心的な彼は実の父が握る会社の経営権掌握を狙い、自宅を抵当に入れてまで自社株取得のための軍資金を蓄えていた。
そんな彼の元に突然謎の男から電話が掛かってくる。電話口の男はあろうことか権藤の息子を拐い、身代金として法外な金額を要求してくるのであった。
しかし、拐われたのは実の息子ではなく運転士の息子であることが分かる。他人の息子と引き換えに自らの人生を引き換えにするのと等しい身代金を払うべきか。かくして、権藤は大きな葛藤を抱えながら判断を迫られることとなった…
というお話。

紛れもない傑作です。およそ半世紀前の作品ですが、むしろ現在になってからこの作品から受ける印象は凄まじいものとなっている気がします。

天国と地獄、あまりにも端的で力強いタイトルだこと。あまり言及すると初見の方に申し訳ないので控えますが、今も広がりを続ける天国と地獄の差に私自身も不安に思いますし、差が生む軋轢によりどんなことが起きてもおかしくないと妙に納得をしたのも事実です。

カット割や画力、演出力のどれをとっても古臭さを感じさせない、むしろ現代映画においてもここまで強烈な構成を見せるものは数えられる程度でしょう。根拠はありませんが、牡丹色の煙のシーンはシンドラーのリストに影響を与えたのではないかとも思えます。衝撃的でした。

鬼気迫る演技をもって降ろされる鉄の緞帳を前に権藤は何を思うか。その感情を慮るだけでも観ている側としては大変意味深い時間であるように感じられました。
俳優という浮世離れした人間だけが醸し出す雰囲気に圧倒。

うーんすごいね。
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