イペー

スローターハウス5のイペーのレビュー・感想・評価

スローターハウス5(1972年製作の映画)
4.0
現在未来過去未来現在過去過去未来!

カート・ヴォネガットの原作小説を映画化。第二次大戦末期のドレスデン爆撃を中心に、時空間を超越して描かれるSF映画。

主人公のビリー・ピルグリムは特殊な時間旅行が可能です。旅をするのは意識だけ。自分の意志とは無関係に、人生のあらゆる地点へ、意識だけが飛ばされます。

よくあるタイムトラベルとは異なり、過去の行動に干渉することは不可能。
ひたすら自らの人生を追体験するだけです。

巧みな構成と編集で、現在過去未来の行ったり来たりが、途切れなく描かれます。
音や映像のクロスオーバーを駆使して、実にスムーズな時間軸のスライド。
自然と観客も、ビリーの不思議な旅路に同行することになります。

幼少期に父親に投げ込まれたプール。
ダイエットの決意を何度も語る妻。
憧れの女優と一緒に宇宙人の見世物にされたトラルファマドア星。
あるいは死の瞬間も…。

バラバラに見える時間旅行の中心にあるのはドレスデンでの記憶。
大戦末期にドイツ軍の捕虜になった米兵たちの中に、ビリーの姿もあります。
彼らが連行されたのが、ドレスデンの街中、第5屠殺場(=スローターハウス5)。

アメリカが長らく封印してきた悪しき史実。ドレスデンでの無差別爆撃によって、数万の民間人が命を失いました。
爆撃を目の当たりにしたビリーの記憶も、惨禍の呪縛からは逃れられません。

何度も繰り返す悲劇。それでもビリーは悟りきった穏やかな表情を浮かべています。
映画の終わりと、ビリーの終わらない旅。人生の無常は静かに反転して、深い余韻に変わります。

「こんにちは、さようなら」

このシンプルな一言に、少し救われたような気がしました。

…この映画のように、自分の人生の重要地点に何度も記憶が飛ばされるとしたら。
自分、しょうもない事しか思い出せないんですけど。
しょうもない人生を送ってきたから…って、そんなことないよ!(一人相撲)