垂直落下式サミング

スローターハウス5の垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

スローターハウス5(1972年製作の映画)
4.3
ジョージ・ロイ・ヒルの作品は、なんだこの話と思って見ていると次第に画面に引き込まれていく。『明日に向かって撃て!』『ガープの世界』も好きな映画だ。
第二次大戦中にドイツ軍の捕虜になりドレスデン空襲を経験したショックから記憶が錯綜している男の一生が時系列を細切れにして描かれる。
人の一生はとりとめのない一秒一秒の積み重ねであって、それには特に意味はない。とても幸せだった思いでのなかにいる自分と、とても辛かった思いでのなかにいる自分と、今を生きている自分は同じ自分かもしれないし、そんなことはとるに足らないことなのかもしれない。人生は取り返しがつかないから重要なのだとも思えるし、人生なんてものは高く見積もらなければ意外とどうにかなっちゃうもんだとも思える。当然ながら自分が思ったこと感じたことが真実であり、いま目の前でおこったこと以外には関与できないのである。
思考を自分の意思でどうこうできる生活の範囲内にとどめておかないと、たくさんの「もしも」や「例えば」が沸いてきて心を病んでしまう。だからこそ自分の人生を肯定できるのは自分しかいないのであって、後付けの理由だろうと懺悔の名を借りた言い訳だろうと、自分が納得できるのならそれは幸福なのだ。少なくとも私はこの作品からそういったポジティブなメッセージを受け取ることができた。