初期の映画にはあまりメガネをかけたキャラが登場しない。
レンズが光を反射してしまい、撮影の邪魔になるので皆メガネをかけなかったらしいが、初めてメガネをかけてスクリーンに登場したのは恐らくこの人ではないかと思う。
ロイド眼鏡の語源にもなった三大喜劇王のひとりハロルド・ロイド(ちなみに撮影はすべてレンズのない伊達眼鏡でのぞんだという)。
チャップリン、キートン、マルクス兄弟はそれなりに主要作品は見てるつもりなのだが、恥ずかしながら、ロイドだけはつい最近まで一本も観たことがなかった。
というのも、ロイドの映画ってなかなかレンタルされていないから。いつぞやかシネマヴェーラ渋谷で、キートン&ロイドの特集をやっていたのだが、仕事で行けずじまいだった。
なので、やっとこさ最近観ることができたのが、代表作中の代表作「要人無用」。初めてのロイド体験です。
終わったあと、まず頭に浮かんだのが、わかりやすい!ということ。
ギャグ、ストーリー、登場人物の表情、全部ひっくるめてわかりやすく作られている。
パントマイム芸のチャップリンや無表情のキートンがいわば通向けとしたら、ロイドの方が遥かに大衆向けのように感じた。
むしろ、サイレント喜劇を観たことのない人にとっては、この人が一番取っつきやすいと思う。
前半はいわばスタンダードなコメディ。恋人を残して田舎から出てきた青年が都会で一旗揚げようと奮闘する姿を面白おかしく描かれている。
後半は、恋人と結婚する資金を稼ぐために、素手でビルをよじ登るのに挑戦する。
ここであの有名な時計の針にロイドがつかまるシーンが登場するわけであります!
60分の映画で、このビルのよじ登りシーンは20分近くもあるのだが、本当にハラハラさせられる。
実際はビルの屋上にセットを作って撮影してるのだが、もちろん命綱はないし、おまけにロイドは、この時既に撮影中の事故で右手の親指と人差し指を失くしていて、本作のアクションは義指着用によるものだからスゴイ!!
ちなみにロイドの婚約者を演じたミルドレッド・デイヴィスは実際にロイドの奥さんで、本作が作られた1923年に結婚し、彼女が亡くなった1969年までずっと添い遂げたという。よっぽど愛妻家だったんだなぁ…。
この辺りは、チャップリン先生にはできない芸当ですな。