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「夜の蝶」 ラウル・セルヴェ作品集のレクのレビュー・感想・評価

3.6
"ベルギー・アニメーションの父"ラウル・セルヴェの生み出す不思議な世界。
同じくベルギー出身ポール・デルヴォーへのオマージュを捧げた「夜の蝶」を含む劇場公開5作品と劇場未公開3作品を収録。


収録されたタイトル、1作品ずつ感想書いてます。



「クロモフォビア」
1966年製作、10分。
タイトル"色彩嫌悪"はファシズムの弾圧を表し恐怖と服従の黒で染め色を消す。
取り戻していく彩りは鮮やかな反抗と表現の自由。

社会風刺、戦争と平和。
ナチスとレジスタンスを彷彿とさせる描写。
10分の短編アニメーションの中でひとつひとつの画から読み取れるブラックジョークが精神に訴えかける。



「人魚」
1968年製作、9分30秒。
‪攻撃的な真っ赤な世界から一転、悲哀に満ちた真っ青な世界へと切り替わる。

‪自然を象徴する人魚と環境破壊をする人間の対比がディストピアを想起させるサイレン(警鐘と人魚のダブルミーニング)を鳴らすメッセージ性の強い作品だ。‬



‪「GOLDFRAME」‬
1969年製作、5分。
‪数々の賞を獲得し映画製作で一位に、第一人者になりたいと願う男ゴールドフレームが壁に映し出された自身の影と争うというシュールな内容。

‪自分しか見えない者、過信や慢心その傲慢さは他人だけでなく自身をも傷つけてしまう。‬



「語るべきか、あるいは語らざるべきか」
1970年製作、11分。
"TO SPEAK(言語)"は"CASH(お金)"に変わる。
芸術家の発言が政治や戦争に利用される皮肉、時に言語は誤った方向に用いられるといった社会的メッセージ。

"LOVE(愛)"は"LOVE THIS(これを愛して)"に、やがて"BUY THIS(これを買え)"へと塗り替えられ、それは"PROPATRIA(愛国心)"となって"PROPATRIA MORTUUS(祖国のために死ぬ)"ことで勲章を得る。
"政治についてあなたのご意見は?"
アナーキストだと罵り糾弾する言語の抑圧が非常に恐ろしい。



「OPERATION X-70」
1971年製作、9分30秒。
人を無気力にしてしまうガスX-70を開発し、敵国へと投下する予定が友好国の街に誤って投下してしまう。

天使か悪魔か、天国か地獄か。
戦争を背景に科学技術の使い道の正否、危険性を孕むことを警告するものでもある。



「PEGASUS」
1973年セルヴェ、8分30秒。
ハエを追い回す鍛冶屋が鉄で馬の頭を作ったら、その馬の頭が巨大化し増殖。それに驚いた鍛冶屋だったが、再び現れたハエを追い回すといった謎の物語。

人の性は簡単には変えられないということなのか、それとも夢のような出来事よりも現実を見ろということなのか。



「ハーピア」
1979年製作、9分。
ギリシア神話に登場する女面鳥身の伝説の生物で、顔から胸までが人間の女性、翼と下半身が鳥。
食欲が旺盛で、食糧を見ると意地汚く貪り食う上、食い散らかした残飯や残った食糧の上に汚物を撒き散らかして去っていくという、この上なく不潔で下品な怪物。

9分という短編ながら惹き込む画と不安を煽る効果音、不気味な雰囲気が作り出すシュールな悪夢に戦慄した。



「夜の蝶」
1998年製作、8分。
‪時間が止まったままの夜の館、蛾が触れることで動き出し、蛾は蝶へと鮮やかな彩りを取り戻す。‬

‪まるで御伽噺、幻想的な絵画世界に紛れ込んだかのように錯覚する不思議な作品。‬
‪奇抜ながら綺麗で、不気味ながら美しく、そして気持ち悪い。‬
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