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EUREKA ユリイカのkoheiのレビュー・感想・評価

EUREKA ユリイカ(2000年製作の映画)
5.0
まだこんなにみずみずしさに満ちた日本映画があったんだっていう驚き、自分にとって100本に1本あるかないかの作品だった。とか中身のないことを言っていてもしょうがなくて、観た今日になんか書いとかないといけない映画なんだけどこれがとても難しい。3時間40分、1秒もだれることがないみっちみちに詰まったこの作品の素晴らしさなんて一生かかっても書ききれないと思う。でもとりあえず少し書く。

部屋のなかで「ドン、ドン」と足を打ちつける役所広司は、人生のやり直しに失敗して家出から戻ってきたあとも「チカ、チカ」と電気を付けたり消したりしてまるで「誰か」との交信を図っているようだった。そんな彼が、誤認逮捕で収容された刑務所で「トントン」という音を耳にする。隣室から聞こえてくる。役所広司は応える。相手もまた応える。「トントン」「トントン」「トントン」[…]。この「トントン」が、やがて兄妹との交信の手段にもなった。バスの中で眠る3人が、交互に壁をノックする。「トントン」「トントン」「トントン」。合図であり、会話であり、心の通じ合いであるこの音。いや、そうした言葉による意味づけを野暮だと感じるようなただ美しい純粋な音。兄弟にしか聞こえない声があったとすれば、これはまた、兄弟+役所広司にしか聞こえない声だった。「やり直しはできんかった。どこ行っても続きは続きやけん」。国生さゆりに対して役所広司が語るこのセリフが象徴するように、死なない限り現実は続く。現実が続く限り悲しい物語は消えない。消えないからこそ私たちには声が必要である。人と人が交信する音が必要である。それはまた、映画であり、物語のことでもあると思う。「悲しい物語の続きを書き足すしかない」という坂元裕二のドラマのセリフも思い出す。「生きろとは言わん。ばってん、死なんでくれ」。続いていく、希望とは言いがたい、絶望かもしれない人生が続いていく。貝を投げて名前を叫ぶ宮崎あおいの、取り戻された声と、失われた人々と、続いていく未来を想う。
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