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ワンス・ウォリアーズのRyotaのレビュー・感想・評価

ワンス・ウォリアーズ(1994年製作の映画)
4.4
衝撃。バイアスがかかってるのはわかるけど、とにかく凄まじかった。忘れないように書いておこうと思う。マオリのこと知らん人にも見てほしい映画や、
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「映画の時代背景」
労働力の不足から1960年に雪崩的に起こった、マオリの都市化(Urban Drift)。都市には娯楽、働く場所、家があるとの甘言に、家族の紐帯を切ってまで都市に出たマオリたちに待っていたのは変わらない貧困、構造的差別に加え、住居の絶望的なまでの不足でした。そんな中から暴力団が生まれるのは自然なことで、1960年代にはオークランド南部を中心にマオリの家族は多く、暴力、または酒やドラッグに浸り、いつしか抜け出せなくなっていました。そうした親を見て育った子らが大学教育を受け、マオリ文化を取り戻そうとしたのが1980年代。この映画冒頭に流れるラジオはマオリ語だけれども、それから考えるにこの映画は1985年以降に設定されているのかと、思います(1985年、マオリ語ラジオ局が初めて設立された。また、原作は1991年とのこと)。ドラッグ、ホームレス、酒、暴力、社会におけるマオリの立ち位置、そして眼差し。そうした背景を暗にワンショットに撮りきってしまうあたり、本当に素晴らしかったと、個人的に思います。
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「マオリ文化の描写」
映画を通じて時折話されるマオリ語、ハカ(ダンス)、タイアハ(長刀のようなもの)、タンギ(葬式)、それぞれが活写されていて、ほんとによかった。特に、現在も絶滅危惧とされているマオリ語は1980年代から1990年代にかけて、ゆっくりとリバイバルにあった時期。家庭においても消えていくマオリ語と、逆にドミナントになってゆく英語という時代の区切りが、Bethの使い分けを通じてくっきりと浮き上がってくる様も見事でした。また、タンギに関してもKārangaから始まり、Hakaで死者を悼み、Tukutuku panelでそっとGraceを包んで送る、ある意味では見事なマオリ文化が描ききられていたと、思います。
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「卓越したストーリー性」
オーディエンスの心に殴り込んでくるような始まり、そしてエンディングでした。酒と暴力に溺れるTamueraを愛するが故に、彼の暴力に苦しむ子どもを助けられない、その狭間に苦しむBethや、叔父からのレイプ、そして父からの暴力に最後には家庭すら信じられず、自殺してしまったGrace。愛憎に塗れた現代の闇を、マオリというフィルターを通してくっきりと描ききるこの映画において、オーディエンスはマオリが過去の人々では決してないことを突きつけられるのだと思う。そして同時に、見るものに対してマオリを化石化、他者化させんとする監督、原作者の覚悟を見せられた気がしました。
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「マオリの反応」
一方で、この映画の話をマオリに切り出す際、あ、いい映画よね!というけれども、あまり良くない顔をされることが多くあります。その理由を尋ねれば、マオリが戦闘民族であるかのように描かれて誤解を生みやすいとのこと。確かに、それはほんとに違和感があった。映画の一番の見せ所やったここのシーンにもそれは顕著なんじゃないかと思います。
「私たちの祖先は、むかし戦士だった。でも、あなたみたいなのじゃないわ、ジェイク。彼らはマナを持った戦士だった。プライドよ、魂を持って生きた人々だった。(Our people, once were warriors, but not like you Jake, they were people with mana. Pride. People with spirit)」
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