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夜霧の恋人たちのericoのレビュー・感想・評価

夜霧の恋人たち(1968年製作の映画)
4.5
トリュフォーらしい詩情に満ちた、美しい喜劇。アントワーヌ・ドワネルくんが兵隊、ドアマン、ついには探偵になり、毎度大真面目にぽんこつやらかしていて微笑ましい。彼は大真面目にクリスチーヌを好きで、そんな日々のなか大真面目にダルボン夫人に恋をする。

「君のことは愛しているかもしれない でも崇拝はしていない」と無邪気に恋人に言いのけてしまう残酷さ。その崇拝する女性に誤って「ウィ、ムッシュー」と言ってしまって、思わずその場を逃げ出してしまう恥じらい。そんな眩しい若さを、「死」という通奏低音の上に奏でられる音楽としてトリュフォーは描く。アントワーヌの同僚の言葉、「セックスは死の代償さ 生きるための営みだよ」はまさにそのコインの表と裏を言い当てているのだろう。

多くの人が気付かないうちに通り過ぎ、やがて失った青年時代という奇跡を、トリュフォーはずっと胸にしまっていたんだなぁ。そしてこんなに可愛い映画を作ったんだなぁ。全ての大人たちがかつて持っていた宝石を再び輝かせるトリュフォーの魔法。愉しくて、同時に少し胸が痛い。
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