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影武者の教授のレビュー・感想・評価

影武者(1980年製作の映画)
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前作「デルス・ウザーラ」から5年。
国内では「どですかでん」から数えれば10年。
全盛期にはほぼ毎年のように撮っていた黒澤明が過去の人になっていった中。
大予算のオールスターキャスト(でもないか…)でとにかく大スケールの時代劇を作り上げた。
ストーリーは面白いし、映画的な工夫も豊富。
可愛さすら感じるシーンもたくさんある。
例えば、大抵の場合、能のシーンなどはキザったらしくて何の面白みも感じないのだが、本作だとなんだか合いの手の声がとにかくデカイ。「いよぉっ!」っていう具合じゃなく「っっっいよぉぉぉぉ〜っ!」とばかりに荒々しい。それだけでもダイナミズムが生まれ凡庸な画面にならない。

しかし、一方でとても寂しさを感じさせる。もちろん当時で60歳を越えていたわけで…立派におじいちゃんだったわけで、全盛期に比べればやはり画も演出もおじいちゃんになっているところは多い。
時代劇口調に隠れて説明的な台詞が増えた。台詞で言えば全体的に生硬過ぎてストーリーに鈍重さが増していたりもする。
しかし、それ以上に脚本からして老齢にさしかかった黒澤の寂しさが全編に滲み出ている。
一見、主役は武田信玄の影武者に見えて、 実は出てくる皆を恐れさせ、そのカリスマに翻弄される武田信玄自身を、黒澤自身が投影しているフシがある。

死して尚、盗人の心まで捉えて離さない、そんな影響力のある存在でいたい。
あんまり出番ないけど、気付けよ!オレの事。オレの映画に対してみんなもっと命かけろよ!
っていう暗に仄めかしたメッセージが読み取れて仕方がない。
それは日本映画の黄金期を最先端で突っ走ってきたにもかかわらず、好きに映画が撮れないままおじいちゃんになってしまった憂いが爆発してて切ない。

そしてもうひとつ。
勝新太郎という化け物が降板して、仲代達矢に代わり、その仲代達矢が往年の三船敏郎のような芝居をやっていることが別の切なさを感じさせる。
この役柄は仲代達矢でもなく、勝新太郎でもなく、本来は三船敏郎だったのではないか、それが一番しっくり来ているのではないか、と思ってしまう。
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