クロ

グロリアのクロのレビュー・感想・評価

グロリア(1980年製作の映画)
3.9
マフィアのボスの元情婦で、今は隠居して安アパートで猫と気ままに暮らすグロリア。噛むようにきつくタバコを咥える口元と額には彼女の笑うときの癖が重なって深い皺が刻まれる。厚く塗り込んだ化粧は彼女の表情を覆い隠す。

マフィアの報復に追われた隣人の最後の願いで彼女は彼らの息子フィルを引き取る。彼女が選んだ老いてゆく自分を淡々と受け入れる生活は闖入者によって破られる。若かりし頃彼女は世の中の裏側で危機への嗅覚を頼りに生きてきたのだろう。しかしその才が仇となり心ならずも旧知のマフィアに銃を向けフィル共々追われる身となる。

子供嫌いのグロリアと大人を信用しないフィル。噛みあわない二人の逃避行はしばしば頓挫する。グロリアは何度もフィルを追い払おうとしたし、彼女自身、自分の母性を否定する。多分それは本心なのだろう。昼はスーツに身を固め気丈にフィルをエスコートしつつ、夜は崩れた化粧の奥で老境を迎えつつある疲れた女の素顔を覗かせる。そして深みに嵌って行くほどに彼女の剥き出しの感情が顔の薄皮の一枚裏でせめぎあう。それはフィルを救おうとする思いに自身の生を賭した強くしたたかな情動だ。何故フィルだったのか、どんな種類の愛であったのかは後付けの問いに過ぎないのだろう。人は掛け値なしの他者との出会いにあっては殆ど無力で、身を投じるか否かの選択しか残されていないのだから。それを見誤らないグロリアは賢い女性だと思う。
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