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警視庁物語 血液型の秘密のotomisanのレビュー・感想・評価

警視庁物語 血液型の秘密(1960年製作の映画)
4.0
 今井健二もこれで二度と正道を歩めなくなったろう。乳児と母親の死体が相次いで発見される中、確度の低い証拠品から始まる聞き込みで今井があぶり出される。血液型判定で子どもの父親か否か問われる事の当惑も殺人の否認も、それらがどんな冷酷さから発するのか、底の知れない感じを今井が好演している。しかし、それは犯行を至上とする酷薄さというのでなく、当人本来の事に感じられる辺りが好演という事である。とんだ役を引き当てたものだ。
 その裏返しのように死ぬ母子二人の心許ない存在感に、そして捜査の隘路に嵌まる横から出て来る意外な通知に何ともこの結末は後味が悪い、それでいて事件に至るのが悪い成り行きばかり故とは違いないが、だがなぜその二人が死なねばならないか、ふたりが死に追い詰められる事情の妙に真に迫るような出来が困った事にとてもいい。
 そして、事件を担当する班員も相変わらずよく働くが、今回は良くも悪くも犬たちが取っ捕まる野良から鼻自慢の警察犬までぞろぞろでてくるが、あの野良たちの哀しさは現に見たことがなくても分かるだろう。
 どこか、作らなければよかったと聞こえてきそうな物語だが、悪に落ちる謂れもないだろうはずが悪に落ち、悪に違いないが罰する手掛かりがなく、なす術もない。こんな事もある、というところだろう。
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